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小説「ジブンのみち」 part2

1 :トミー・ボンバー:04/01/26 14:20 ID:2pZ/8Y/+
前スレがdat落ちしてしまってたので立てました。
辻豆さん、続きをどうぞ宜しくお願いします。

「前スレ」
ジブンのみち
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1063597955/


2 :ヽ(O^〜^)ノMIYAKO ◆YOSSIEfUzw :04/01/26 20:37 ID:tA52WPfo
2げっと

3 :名無し募集中。。。 :04/01/26 20:41 ID:DxauSDDL
n日ルールか


4 :ニィニィ♪豆ちゃんよ♪:04/01/26 20:44 ID:BcsrdpCY
    _, ,-;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;:;::,.
   /;:;:;:;:;:;;:;:;:;:;:;:ミミ;:;:;:;:;:;;:;:;`、__
  /;:;::;:/ /;:;:;:;:彡―ー-;:;:;:;:;:;;|:;:;:;:;:;:;ヽ
 /:;:;:;:;:|;  |ノ、      `、;;:;:;:;i |:;:;:;:;ヽ
/:;:;::;:; ;| /_=  ====  |;:;:;::;! |:;:;:;:;:;:ヽ
|;:;:;:;:;: ;| | ' ゚ '  ┌。-、  |;:;:;:;:/ |:;:;:;:;:;:;|
 |:;:;:;::/ |`  (。。     ソ  |ノ:;:;:;|:;:;:;|
_,-ー | /         ノ<糞スレ立てんなクソが!
 | :   | ヾ三ニヽ   /ヽ、_   ヽ:;:;:;::;| 
 ヽ   `、__ ー'  |   `ー ――、
  |    | \   / |
  \   |___>< / ヽ


5 :名無し募集中。。。:04/01/26 20:58 ID:sqe2vEnQ
>>1

あの時間によく立てられたなw

6 :名無し募集中。。。:04/01/26 21:12 ID:llG/A18S

从*・∀.・从<…アーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャ…。

小説「ジブンのみち」

HTML版 http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955.html
かちゅ〜しゃdat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955.lzh
かちゅ〜しゃdat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955.zip
Janedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-jane.lzh
Janedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-jane.zip
ホットゾヌ2dat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-zonu.lzh
ホットゾヌ2dat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-zonu.zip
ABonedat(LHA圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-abone.lzh
ABonedat(ZIP圧縮) http://csx.jp/~sheep2ch/1063597955-abone.zip

7 :名無し募集中。。。:04/01/27 06:37 ID:8P+itnkY
辻豆さん、意外な出来事で保全できなかったッス…

8 :名無し募集中。。。:04/01/27 20:02 ID:SFDQ+3Hn
辻豆さん此処分かるかな

9 :名無し募集中。。。:04/01/27 21:26 ID:8P+itnkY
総合スレからリンクあるから
大丈夫っしょ‰

10 :名無し募集中。。。.:04/01/28 20:26 ID:LavOhkVw
ノノ*^ー^)<死守!

11 :名無し募集中。。。:04/01/29 03:10 ID:vFpnkapH
>>10
そうか、即死判定があったな・・・忘れてた

12 :名無し募集中。。。:04/01/29 08:31 ID:X8b2Czx7


13 :名無し募集中:04/01/29 08:52 ID:6xo07mTM
待ってる

14 :名無し募集中。。。:04/01/29 15:53 ID:bgHVezzV
復旧した鯖の即死判定はどうなってるのか?
連投なんかも数値が変わってるらしい
ともかく保全

15 :名無し募集中。。。:04/01/29 23:05 ID:p+qFh9q3
保全協力。
容量が危ないんだったら、前スレの最後の更新をコピペするとかどうだろう?
今回は落ちませんように。

16 :名無し募集中。。。.:04/01/29 23:28 ID:8hbQ/1gj
とりあえず40レスを目指しつつ、辻豆さんの登場を待ちつつ、本編でのあの人の登場を待つ。










☆ノハヽ
ノノ*^ー^) <ん〜?

17 :名無し募集中。。。:04/01/30 07:50 ID:m4qIR4Q5
このペースでは危ない気が…

18 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 08:29 ID:dzPkZSmg
このスレはわれわれ辻豆保全隊。。。が保全します!

19 :名無し募集中。。。:04/01/30 09:45 ID:4qAB+2UV
協力します。保全。

20 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 10:11 ID:dzPkZSmg
(〜^◇^)<ヤグイエロー!保全します!

21 :名無し募集中。。。:04/01/30 11:32 ID:l9Ic2vGH
辻豆さんIE派って事はないよね?

22 :名無し募集中。。。:04/01/30 11:47 ID:NgC0R3Mo
可能性が無いとは言えんな。

23 :名無し募集中。。。:04/01/30 14:41 ID:UaFLkJcX
揚げてみるのはどかな?

24 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 15:09 ID:dzPkZSmg
川o・ー・)ノ<紺野ブルー保全します!

25 :名無し募集中。。。:04/01/30 21:10 ID:hzNsZ6WM
あいぼんぬさまと共に復活を

26 :辻豆保全隊。。。:04/01/30 21:31 ID:m4qIR4Q5
(‘д‘)<加護グリーンやでぇ! 保全したるわぁ!

27 :辻豆保全隊。。。:04/01/31 00:17 ID:Anc/fO6X
( ^▽^)<石川ピンク!保全しま〜す!

28 :名無し募集中。。。 :04/01/31 04:37 ID:K+/yJEOq
>>21
ありうるかな。
ここ1ヶ月の辻豆さんの更新ペース
03/12/29
03/12/31
04/01/04
04/01/06
04/01/10
04/01/12
04/01/15
04/01/18
04/01/22
04/01/25
たしかにちょっと開いてるな。
ところで25日ってまだIEでアクセス出来たっけ?


29 :名無し募集中。。。:04/01/31 07:25 ID:KeB34FZs
26日の2時頃に飛んだはず

30 :名無し募集中。。。:04/01/31 11:12 ID:8ClOvvU/
( ´D`)<即死回避まで残り10なのれす

31 :名無し募集中。。。:04/01/31 12:55 ID:rbKTOr9C
IEだったらage進行でいかないと気付かないのでは?

32 :名無し募集中。。。:04/01/31 14:04 ID:CxVfm1LO
そういう問題ではない

33 :名無し募集中。。。:04/01/31 18:41 ID:igYi2W39
hozen

34 :名無し募集中。。。:04/01/31 19:06 ID:fIRDqW5U
>>32
IEだと上位20スレしか見れないんじゃないの?

35 :名無し募集中。。。:04/01/31 20:42 ID:C1OjgqQz
見れたってかきこめないんだからいっしょだろ

36 :名無し募集中。。。:04/01/31 20:48 ID:qQcAd6qS
>>34
なんか事態の認識の仕方を間違えてるぞ

37 :名無し募集中。。。:04/01/31 21:11 ID:27u9y8sX
とかなんとか言いつつ40レスを目指して爆進中

38 :名無し募集中。。。:04/01/31 21:13 ID:fIRDqW5U
今、IEは上位20スレしか見れなくて書き込めないって言う認識なんだけど
なんか間違ってる?
いや、辻豆が専用ブラウザ使ってたら関係無いけど

39 :名無し募集中。。。 :04/01/31 21:15 ID:K+/yJEOq
40まであとひとつ


40 :名無し募集中。。。 :04/01/31 21:15 ID:K+/yJEOq
40GET


41 :名無し募集中。。。:04/01/31 22:02 ID:4dEZob+7
取り敢えずこれで即死は無くなったのか?

42 :名無し募集中。。。:04/01/31 22:23 ID:XAGjYFIi
ソウンドノバル読もうと思うのだが、あれって1から読まないといけないものなのか?

43 :名無し募集中。。。:04/01/31 22:24 ID:XAGjYFIi
○サウンドノベル
最近誤字多いな・・・

44 :名無し募集中。。。:04/02/01 02:23 ID:Ecvt1kX2
>>38
IEでも上位20なら書きこみできるよ

45 :ただすん:04/02/01 11:54 ID:lZka8jYd
あややの新曲のプロレスラーみたいなカッコ、この小説のあややとダブって見える。

46 :名無し募集中。。。:04/02/01 19:40 ID:dijpxENx
辻豆氏、書き込みできないようですな。
(羊)小説案内所のBBSに書いてあった。
ttp://f25.aaacafe.ne.jp/~nanashi/

47 :名無し募集中。。。:04/02/01 20:46 ID:u4N53R00
そこのサイトの人がんばってるなあ

48 :ねぇ、名乗って:04/02/02 00:21 ID:NhW8jIkg
IE規制はまだしばらくは続く感じだね
運用情報スレを見ると、新鯖次第という雰囲気もある
羊や狼のスレ立て規制や名無しも変わったし・・当分は苦労しそうですな


49 :名無し募集中。。。:04/02/02 00:29 ID:FD4CGdN8
>>44
そういう意味でageた方がいいんじゃないって言ってたんですけどね
ま、連絡できる場所があるんならいいか

50 :名無し募集中。。。:04/02/02 01:05 ID:chAu2c6P
(´-`).。oO(何で2chブラウザ使わないんだろ…)

51 :名無し募集中。。。:04/02/02 12:21 ID:DehM5K1c
>>49
上がってるときに見てるとは限らないからね

52 :名無し募集中。。。 :04/02/02 17:31 ID:YdM+zdFL
そろそろ禁断症状がっ!

53 :辻豆保全隊。。。:04/02/02 17:33 ID:8vYxOEjG
(ё)<新垣ブラック保全します!

54 :あげ:04/02/02 21:30 ID:sqYLr5zw
あげ

55 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:31 ID:U8zZ6iIk
石黒の視界に次々と信じられない光景が入り込んでくる。
殴られている。
あの飯田圭織が…。最強の女が…。殴られている。
まだ十代の小娘に。
いやそれは殴るなんて生易しいものじゃない。削れらてゆく。
圭織が…ここまで積み上げてきたもの全てを…削ってゆく。
(松浦亜弥…)
(お前は何だ…)
(やめろ!やめてくれ!もう…)

「やめろぉーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

叫んだ。その声は松浦亜弥の耳に届きはしなかった。
ジョンソンバスターから起き上がった後の松浦は、もう石黒の知る松浦ではなかった。
これまで幾多の怪物を見てきた石黒の背筋が冷たく凍りつく程に彼女は…。
さっきまでガードもできなかった圭織の攻撃を難なく避ける。
当てることもできなかった攻撃を軽々と圭織の顔面に叩き込む。
一方的な試合が…反対に一方的な殺戮へと変わった。
圭織の顔面はボコボコに腫れ上がり、全身が血に染まっている。

「だから…」

こんな鬼気迫る圭織の表情を見たのは…いつ以来だろう?
唇を噛み締めて、言葉をの一つ一つを紡ぎ出す。目の前の死神に…。

56 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:32 ID:U8zZ6iIk
「だから…お前を出す訳にはいかないんだっ!」

圭織は長い腕をナタの様に振り下ろした。
起死回生、逆転の祈りを込めた必殺ジョンソンチョップ!
しかし、プロレス界最強の攻撃力は、死神の脳天スレスレでその動きを止めた。

「髪をなでてよ」

松浦は掴み取った飯田の腕を、まるで撫でさせる様に自分の髪にすりよせる。
同時に下から物凄い勢いで競り上がってくる物体があった。松浦の爪先。
爪先は飯田圭織のアゴと首の間を思いっきり蹴り上げた。
長身が宙を舞い、やがてズドンと地に落ちる。
飯田圭織が地に落ちた。
歴史が止まった。

「さようなら。憧れのジョンソン飯田さん」

大の字に倒れる圭織に向けて、クリクリと指差して松浦は微笑んだ。
それからクルリと石黒の方に向き直る。

「終わりましたよ」
「松浦。お前、相手が誰だがわかって言ってるのか?」
「はい?」
「ジョンソン飯田だぞ。そいつをわかって終わったと言っているのか?
 相手がジョンソン飯田ならば…ここからが本番だろう」

57 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:32 ID:U8zZ6iIk
「うううううううううぅぅぅぅ…」

夜の帳にうめき声があがる。
声の主は、かつて女帝と称され栄華を極めた女。
今はただの廃人。
もう何年も寝たきりの生活を続けている彼女の姿は、まるで別人と化していた。
毎晩、自分を地に貶めた女の夢でうなされる。

「ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ところが今夜のソレは尋常では無かった。
全身を掻き毟り、ベットの上で荒れ狂い、大声で叫び続ける。
住み込みのお手伝いがいくら止めても、もう手に負えるものではなくなっていた。

「来る…」

彼女は何度も「来る」「来る」と怯え続けていた。

――――――――――――神が来る

58 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:32 ID:U8zZ6iIk
松浦亜弥は振り返った。
飯田圭織は仰向けで倒れたままだ。ただ、その右腕だけが天に向かって伸びていた。

(交信!!)

淡い光がジョンソン飯田の体を包み込む幻想に陥り、松浦は思わず目を閉じた。
再びまぶたを開けたとき、ジョンソン飯田はその場に立ち上がっていた。
焦点の合わない虚ろな表情で。

「アハ、アハハ…これが噂の交信ってやつですか〜?」
「よせ!もうやめろ松浦!!」
「石黒さん。私、そういうの信じないんで」
「やめろーーー!!!」

石黒はもう一度叫んだ。
(あの状態の圭織と闘った相手が、今どうしているか知らんだろ!)
(お前まで!お前までそんな目に合わせる訳には!)

死神の鎌が狙いの首をもぎ取ろうとした瞬間、神の両目がまっすぐに開いた。
それから数秒の記憶が松浦にはない。
5,6個の技を同時にもらう様な不思議な感覚と途方も無い絶望感。
どんな闇も、どんな狂気も、一手に飲み込んでしまう力。
まるで本当に神様を相手にしている様な…。

59 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:33 ID:U8zZ6iIk
本当にいたんだ…。
プロレスの神様。
あぁ、私、今、それと闘っているんだ。
凄ぇじゃん。
今度、愛に自慢してやろう。
『私、神様とケンカしたんだぞ』って。
それだけじゃない。私は勝つんだ。
だって約束したよね。
『宇宙一強いプロレスラーになる』って。
愛は宇宙にプロレスなんか無いって言っていたけど、神に勝ったら認めるでしょ。
宇宙一だって。
そしたら決着つけようぜ!
宇宙一強いプロレスラーより強い格闘家が夢の、あんたとね。
でっかいでっかい舞台で。みんなが見てる前で。
どっちが強いか!?
ね〜え?聞いてる?愛。
ちょっと待ってってば、何処に行くの?置いてかないでよ。
愛!待ってよ愛!
私はここだよ!ここにいるってば!
暗い!何にも見えない!どうして?愛!

「愛!!」

60 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:33 ID:U8zZ6iIk
ドンッ!!

それは素人が見てもわかるくらい危険な一撃だった。
圭織の手が松浦の胸にめり込み、松浦の頭がカクンと下に揺れた。
圭織が手を抜くと松浦は、全身の穴という穴から鮮血を噴出し崩れ落ちた。
それでもプロレスの神様は攻撃の手を緩めようとしない。
崩れ落ちた松浦をボールの様に蹴り上げる。

「もしものことがあったときは…頼む」

試合の前、圭織が告げた台詞の意味がようやく理解った。
石黒彩は駆け出した。

「圭織ぃ!!」

全力を込めて、プロレスの神様の背を羽交い絞めにした。
だが物凄い圧力で石黒は吹き飛ばされそうになった。
(こうなった圭織を止められるのは相棒の私しかいない。そう思って圭織は託したんだ)
離すものか!石黒は声の限りに叫んだ。

「おい!プロレスの神!出て行け!こいつは私の相棒!飯田圭織だ!!」

その瞬間、圭織の体が急に軽くなり、勢いのつき過ぎた二人は後ろに倒れた。
神は去った。
――――――同時に、血の海の中、松浦亜弥はその鼓動を止めた。

61 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:37 ID:U8zZ6iIk
数日後、ハロープロレスは記者会見を開く。
飯田社長とエース松浦が、予定されていた全スケジュールをキャンセルした件について。
ところが、この会見に姿を見せたのは副社長の石黒彩一人だけであった。
不穏な空気が流れる中、彼女の口から次々と衝撃のニュースが語られる。
『飯田圭織、体調不良により緊急入院』
あのジョンソン飯田が…と驚く声が多数あがったが、次のニュースがあまりに
衝撃的であった為に疑問の範疇から消し飛んでしまった。
『松浦亜弥のハロープロレス退団』
想像もしえないことだった。人気絶頂のスーパースターがあまりに突然すぎる。
しかもその発表会見に本人が姿を見せないのだ。
ブーイングが飛び交う中、石黒彩は最後にこう締めた。

「安倍なつみのトーナメント。ハロープロレスからは私、石黒彩が出場する。
 飯田圭織と共に作り上げたハロープロレスこそ真の最強であること、
 この私が全力をもって証明してみせたいと思う」

ただ一人。
飯田圭織と松浦亜弥の死闘を眼にした彼女だけが知っている。
ハロープロレスこそ最強の格闘技!
この身を賭けてそれを知らしめることこそ、ジブンの道だと石黒は心に誓った。

第12話「プロレスの神様」終わり

62 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:37 ID:U8zZ6iIk
【某格闘技誌にて行なわれた優勝予想アンケートの結果】

1位 吉澤ひとみ(UFA世界ヘビー級王者)
やはりと言うべきか。ボクシング世界チャンプの肩書きはあまりにも強力。
破壊力も安定性も兼ね揃えたパーフェクトファイター。堂々の優勝候補一番手。

2位 藤本美貴(夏美会館空手全国王者)
1位とは数票の差で惜しくも2位となるも、空手最強崇拝者からは絶大なる支持。
安倍なつみに匹敵するとまで噂されるその実力が、いよいよ披露されるのか!?

3位 石黒彩(ハロープロレス代表)
今大会最年長。プロレスファンの期待を一身に受け見事ベスト3入り。
あのジョンソン飯田の相棒として長年培った経験が最大の武器。

4位 柴田あゆみ(東日本予選優勝)
未知の新人ながら、吉澤・藤本に並ぶ身体能力の持ち主として票が急上昇。
必殺のキック「フリージア」は威力・精度・リーチとも今大会随一との評価。

63 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 21:38 ID:U8zZ6iIk
5位 矢口真里(オリンピック柔道金メダリスト)
経歴と知名度の割に票が伸び悩んだのは、小柄な体格と打撃経験の有無によるものか?
だがファンは「ヤグ嵐」による奇跡を待望しているぞ!

6位 高橋愛(18歳以下トーナメント優勝)
スピードとテクニックは全出場選手中でトップクラスも、ややパワー不足は否めない。
ただ、冬の大会から半年間の成長次第では、台風の目となる可能性も十分ある。

7位 田中れいな(西日本予選優勝)
今大会最年少。若干15歳にしてボクシングミニマム級王者ミカを粉砕する快挙。
超一流の怪物達を相手にどこまで健闘できるか期待したい。

8位 ***(館長推薦枠)
発表は組み合わせ抽選会当日に行なうとのこと。

64 :名無し募集中。。。:04/02/02 22:16 ID:gmGFNgLy
辻豆たんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!

65 :名無し募集中。。。:04/02/02 22:19 ID:s+7nfYKv
 

66 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 22:22 ID:U8zZ6iIk
次回予告

それぞれの道を歩んできた娘たちが、いよいよ一同に会す。
安倍なつみの口から告げられる『8人目』の名。
そしてトーナメント全対戦カードの決定!
最強に手を掛けられるのはこの中でたった一人だけだ!

67 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/02 22:22 ID:U8zZ6iIk
すいません。ずいぶんと心配かけました。
新スレまで立ててもらって、本当にありがとうございます。
辻豆さんに内緒でヤグチが勝手に作った辻豆保全隊の皆さんもありがとう。
小説の方もいよいよ大きな山場を迎えて参りました。
期待に応え、良い意味で裏切れる様に、またがんばっていきます。
これからも宜しくお願いします。

68 :ねぇ、名乗って:04/02/02 22:45 ID:rmAUSwsk
辻豆さん久々の更新乙です。
まさか二人とも出場しないとは、
これからも楽しみに待っていますので
マイペースで良いので良い作品をお願いいたします。

69 :名無し募集中。。。 :04/02/02 22:50 ID:Em3KPwFz
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!


70 :名無し募集中。。。:04/02/02 23:41 ID:JaonXfsy
どんな形であれジョンソン飯田が勝ってよかった・・・
辻豆さん乙です

71 :名無し募集中。。。.:04/02/02 23:56 ID:VyzzhTlj
待ってました!と。お疲れさんです。

72 :ただすん:04/02/03 00:33 ID:Gvjxb3T0
奇跡の香りダンスキタ━(゚∀゚)━!!

>某格闘技誌にて行なわれた優勝予想アンケートの結果
一瞬、現実の格闘技誌でアンケート集計されたのかと勘違いしてしまいました…

73 :名無し募集中。。。:04/02/03 07:38 ID:Cp6YWbPN
辻豆さん乙です

74 :名無し募集中。。。:04/02/03 07:54 ID:2RBrOeDn
まってましたー!飯田が勝ってよかったです。
あとは推薦者だれなんだろ?

75 :辻豆保全隊隊長。。。:04/02/03 10:08 ID:F9Xbgc54
辻豆さん更新乙です!
一時はどうなることかとひやひやでした!
これからも保全隊頑張って保全します!
辻豆さんも頑張ってください!

76 :辻豆保全隊。。。:04/02/03 17:35 ID:F9Xbgc54
川'ー'川<ラブリーレッド!保全するは〜

77 :名無し募集中。。。:04/02/03 17:57 ID:Cp6YWbPN
>>74
推薦者は前スレ読めば書いてあるけど
辻なんじゃない?

78 :辻豆保全隊。。。:04/02/03 21:56 ID:F9Xbgc54
川=v=从<藤本オレンジ!保全します!

79 :名無し募集中。。。:04/02/04 03:28 ID:tP6vmJuF
正直、保全はもういらないわけなんだが・・・まあいいか

とりあえず辻豆キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!

80 :あげ:04/02/05 01:18 ID:9dSPUKhV
更新あげ

81 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:18 ID:H6nUw8C8
第13話「抽選会」

「アテになんないランキングだねぇ」と言って、市井は読んでいた雑誌を放り投げた。
床に落ちたそれを拾い上げてパラパラとめくる。
冒頭の『1位 吉澤ひとみ』の欄で石川の視線は止まった。

「どうしてぇ?よっすぃーが1位だよ?」
「バァカ。そんなもん吉澤を世界チャンプとしか、見てない奴の評価だ」
「じゃあ実際は違うの?」
「大違いだね」

市井の言葉に石川はコロコロ表情を変化させる。
今は眉間にしわを寄せて唇を持ち上げている。たいそうな不満顔だ。

「わかってねえなぁ。本当の吉澤を知ったらそんなランキング成り立たねえんだよ」
「ちゃんと説明して下さい」
「本当の吉澤を知れば、その全員が間違いなく吉澤の優勝に票を入れるってことさ」

不満顔がたちまち甘い微笑みに変わった。

「2〜8位が成り立ってる時点で、アテにならないランキングなんだよ」
「じゃあ今日の抽選もよっしーにはあんまり意味ないんですね」
「そういうこと。あいつには通過点でしかない…」

市井の言葉の先にあるもの―――そう、その先であの娘が待っているのだ。

82 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:19 ID:H6nUw8C8
大会二週間前。
東京の某ホールにてトーナメント組み合わせ抽選会が開かれる。
出場選手は全員参加。いよいよ選び抜かれた7名が揃い踏むことになる。

(ぬ、脱ぎてぇ〜)
選手控え室の中、着慣れない正装姿に吉澤は早くもダウンしかけていた。
石川に無理矢理仕立てられたスーツがどうにも体を締め付けて、居心地が好ましくない。

「似合ってるじゃないか。どこのイケメンかと思ったぞ」
「ん?あー、あのときの」

ネクタイを緩めながら、吉澤は声のした方に顔を向ける。
数ヶ月前、攫われた石川を救うために戦った敵チームの一人がそこにいた。
大人びたジャケットを纏った柴田あゆみが、相変わらず表情の薄い顔で立っていた。

「意外だったぜ。お前らがこういうのに出てくるなんて」
「メロンは関係ない。私個人の意思だ。あいつと…約束したからな」
「…あいつか」

吉澤と柴田の脳裏に一人の娘が思い浮かぶ。
ここに来るはずの彼女は、未だ姿を見せてはいない。

「それより、石川梨華とはまだ一緒にいるのか?」
「何?あんだけヤラレテまだ懲りねえ?次梨華ちゃんに手ぇ出したらマジ殺すよ」
「無事ならいいさ。こっちももう関わりあう気は無い」

83 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:20 ID:H6nUw8C8
吉澤は少しムッとした。
もう数ヶ月近く一緒に暮らしているというのに、まだ吉澤は石川の素性を知らない。
詮索する気はないし、トレーニングでそれどころじゃなかったのも事実だ。
そういう関係でいいと思っていたが…

「お前、梨華ちゃんのこと、何か知ってんのか?」
「話せない。そういう決まりになっている。本人から直接聞け」
「あっそ」

何故か吉澤は自分に腹が立った。気にしていないつもりだったのに。
自分以外の誰かが自分の知らない石川梨華を知っている。
そんなことでこんなにもイライラするなんて思ってもいなかった。

「アニキィーーーーーーーー!!!」
「っぬお!」

場違いな大声に、吉澤の考え事は彼方へ吹き飛ばされてしまった。
アニキなんて呼び方するのはあのヤロウしかいない。

「ピーピーうっせーぞ!ピーマコ!」
「な〜に言ってんすか。アニキに会わせたい人がいるんですよ!」
「あん?会わせたい人?」

次の瞬間。吉澤は実に久しぶりに寒気というのを感じた。

84 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:20 ID:H6nUw8C8
「講道館の先輩で矢口真里さんっス。知ってますよねオリンピックの…」
「バカ、知らねえ訳ねえだろ!」

CMにも出演している国民的女柔道家、通称ヤグチ。
子供からお年寄りに至るまで、彼女の名を知らない国民なんているのだろうか?
だが吉澤が驚いたのはそんな所では無い。
150cmにも満たぬ小さな体から発せられる圧倒的威圧感だ。
(おいおい、安倍・飯田級じゃあねえか?)

「矢口さん。中学の先輩だった吉澤ひとみさんっス。ボクシングのチャンピオンの…」
「あぁ聞いたことあるなぁ」

小川の紹介を聞いた矢口から発せられた台詞はそれだった。
(聞いたことがある?その程度?この吉澤ひとみの名を、聞いたことがある程度?)
(おもしれえ!矢口真里!完全に自分の方が格上だと思ってやがる!おもしれえぞ!)

「よろしくね」

矢口真里は握手を求める手を差し出した。
だが吉澤はその求めに応じようとはしない。

「ごめん。ワクワクしちゃったから。握手はしないよ」
「?」
「あんたの手に触れちまったら、もう我慢できなくなりそうだ。だから…しない」

85 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:21 ID:H6nUw8C8
「お前の先輩、なかなかおもしろいこと言うじゃん」
「エッヘッヘ〜」

目的を失った右手を下げて矢口が言うと、
小川は自分が褒められた訳でも無いのに何故か照れてみせた。
吉澤はさらに続ける。

「安心したよ。本気出しても良さそうな相手がいて」
「そいつはどうも」

二人のやり取りを脇で聞いていた柴田も、体温の上昇を感じていた。
(強い奴はいっぱいいる。あいつの言った通りだ。確かにおもしろい)
裏世界にいた頃は感じたことのない興奮。本物たちの世界に柴田は震えた。
ここにもまた、新たな修羅が生れ落ちたのであった。

「騒がしいな」

視線が入り口に集まる。
ハロープロレス副社長、石黒彩の登場であった。
流石に他の選手達と比べても風格が段違いである。
彼女は誰とも口を聞こうとせず、一人奥のベンチに腰掛けた。
それを機に、吉澤と矢口も会話を止めそれぞれ壁際に離れていった。

抽選会開始の時間はもうすぐだ。
選手集合時刻も過ぎているというのに、まだ半数しか控え室にはいない。

86 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/05 01:25 ID:H6nUw8C8
そのとき、ドタドタドタッと大きな足音を立てて彼女は現れた。

「ハァハァハァ…間に合ったぁ〜!」
「遅え!お前、いっつも遅刻だよなー!」
「いやぁ〜渋滞でタクシー止まってもたで走ってきたんやって」

小川の突っ込みにこれまたノーテンキに方言丸出しで答える娘、高橋愛である。
しかもその格好はあまりに酷い。まるで地下街に住まう浮浪者の様だ。

「…ったく、バッチリ決めてきたこっちが恥ずかしくなる」
「ああ!吉澤さんじゃねえですか。どっかのホストみたいでわからんかったわ」
「くく…」
「おおー!あゆみちゃんもいるわ!やっぱり来たんやの〜良かった良かった!」
「てゆうか愛!あんた、着替えは?」

小川がもう一度つっこむ。愛はきょとんした顔で答えた。

「山から直接来たで何ももっとえん。だって抽選会の話も今朝知ったんやし」
「TVに映るんだぞ!あーもういい!私の貸してやるからとっとと着替えろ!」

小川が強引に愛の背中を押した。その際、愛の視界にまた懐かしい顔が映った。

「おお!石黒さんも出るんや!知らんかったわ!亜弥は元気か?」

が、目を伏せたままの石黒から返事はない。
そのまま小川に押し切られ、愛は已む無く趣味の悪いドレスに袖を通すこととなった。

87 :ただすん:04/02/05 02:00 ID:tLpKWZ1Z
抽選キタ━(゚∀゚)━!!

88 :名無し募集中。。。:04/02/05 21:25 ID:/bRAqYz8
辻豆さん乙です
早く抽選の結果が知りたいです


89 :ねぇ、名乗って:04/02/06 01:16 ID:QHefQESS




90 :名無し募集中。。。:04/02/06 17:04 ID:w/j5A/ez
アヤカはどう使うんだろう?

例えば
クイーンオブゲージチャンピオンで
格闘ヲタクで
決め台詞は
「ツキニカワッテオシオキヨ!」
なんてのかな?
つまらなかったらスマソ

91 :辻豆保全隊。。。:04/02/07 17:40 ID:oHU3gcDE
( ´v`)<辻ホワイト!保全するのれす!

92 :あげ:04/02/07 20:34 ID:3auNpCaw
あげ

93 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:35 ID:0ieD6Y28
ホールにはおおぜいの大会関係者、マスコミが陣取る。
いよいよ抽選会の始まり。
一斉にフラッシュが巻き起こる。両脇に藤本と辻を従えて、安倍なつみの登場。

「お待たせ!」

マイク越しの一声で、場は静まり返った。
皆、大会主催者の次の言葉を待っているのである。
なっちは両隣の藤本・辻に目配せし、息を吸うと大声で言った。

「始めるぞっ!出て来い!なっちの首を狙う無謀なチャレンジャーども!」

呼応する様に会場右側の分厚いカーテン開いた。
その奥に六人がバラバラと立っていた。再びフラッシュの嵐。

「吉澤さん。うちら無謀やって」
「言わせとけ」

矢口。高橋。吉澤。柴田。石黒と無造作に前へ歩み出す。
最後に、いつの間にか居た田中れいなが面倒臭そうに表へと顔を見せる。

「これで藤本を含め7人。それじゃあ早速、8人目の発表といく?」

誰に尋ねるでもなく、なっちが勝手に話を進めていく。
6人が現れた右のカーテンの反対、左のカーテンを指差しなっちは続けた。

94 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:35 ID:0ieD6Y28
「これから、あのカーテンの向こう側に8人目が登場するよ。
 なっちの推薦だからね〜。とびきり強いよ〜」

まるで子供を脅す様な言い口で、なっちはニコニコと微笑む。
安倍の後ろで藤本と辻が顔を見合わせる。

「おい辻、お前。誰か知ってるか?」
「教えてくれなかったのれす」
「私たちにまで内緒で、一体どんな奴を用意してやがったんだ?」
「さぁ〜」

出場選手も、報道関係も、なっちを除く会場中の全員が息を呑む中――カーテンが開く。

「吉澤さん」
「なんだ高橋」
「これは手ごわいよ」
「んん?」
「相手は透明人間やわ」
「んな訳あるか!」

カーテンの向こうには…誰もいなかった。
「どういうことだ?」という眼で全員が安倍なつみを睨む。
しかしなっちは少しも悪びれずまた微笑んだ。

「言ったでしょ。これからって」

95 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:36 ID:0ieD6Y28
するとなっちは隣にいた小さな娘のヒョイと持ち上げ、ツカツカと歩き始めた。
シャツの背中を掴まれた辻希美はまるで借りてきた猫の様にされるがまま、
なっちが手を離すとポトンと床に落とされた。

「え?え?え?え?」

落とされた場所はカーテンの向こう側であった。なっちが呟く。

「8人目の登場」

驚愕が会場中を包む。驚きの中カメラを回す報道陣達。
しかし一番驚いたのが辻希美本人であることは疑いない。

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」

とがった八重歯を少しも隠さず大きな口を開けて、反応する辻希美。

「き、き、き、聞いてないのれす!」
「言ってないもん!」
「ションナ!」
「地上最強になりたいからなっちのトコ来たんでしょ?」
「う〜」
「なってきなよ」
「…なちみずるい」
「コラ、館長って呼べ」

96 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:36 ID:0ieD6Y28
8人目は辻希美。これでトーナメント出場者のメンバーが決まった。

「吉澤さん、あの子知ってる?」
「前にハロープロレスにいた奴だろ。テレビで見た顔だ」
「あぁ、思い出した!亜弥と試合してたあの子か!なんで夏美会館にいるんや?」
「さぁな。けど安倍なつみが推薦するくらいだ、油断はできねえよ」

吉澤と高橋以外の選手も新たな敵、辻希美を見定めていた。
ただ、ハロープロレスの石黒だけは興味なさ気に目を閉じている。
突然の出来事に辻は、胸を押さえて元の位置まで駆ける。
どうすればいいか困ってテレていると、藤本に背中をきつく叩かれた。

「シャッキとしろ!お前も夏美会館の代表だぜ」
「ミキティ…」
「呼び捨てすんな。行くぞ」
「へいっ!」

藤本美貴と辻希美が並び立つ6人の元へと歩み出す。
迎え撃つ6つの視線に向けて藤本は言い放った。

「最初に言っておく。お前たちの誰も、あそこへは辿り着けねえ」

あそこ――――藤本の親指の先は安倍なつみを差している。
最強には辿り着けない!

97 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:36 ID:0ieD6Y28
「上等!」

吉澤と高橋は同時に言い放った。矢口と柴田も無言でにらみ返す。
石黒はまだ無関心に目を閉じていた。田中はアクビを噛み潰していた。
そこに辻が元気に飛び込み、藤本が横に加わる。
ついにトーナメント出場者8名が並び立った。
高橋愛。吉澤ひとみ。矢口真里。柴田あゆみ。田中れいな。石黒彩。藤本美貴。辻希美。

「はいはい!本日のメインイベントいきますよ〜!抽選だぁ!」

闘志剥き出しの選手をよそに、なっちは着々と進行を進める。
前面の巨大なスクリーンボードにトーナメントが浮かび上がった。

「この箱の中に1から8の数字が入った球が入っているから順番に一個ずつ取って。
 それと、抽選の順番だけど、これの下位の子から順にするから。文句無いよね」

強引な司会なっちが手に持つのは、先日優勝予想アンケートを実施した某格闘技雑誌。
予想順位の低かった娘から順に抽選させようと言うのだ。
何の意味があるかはわからないが、あえて不平不満を言う選手はいなかった。

「順番なんかどうでもいいって。誰が相手でも投げ飛ばすだけだし〜」
「同感」

矢口のコメントに石黒が賛同する。
よって、なっちの提案どおりの順番で抽選は行なわれることとなった。

98 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:37 ID:0ieD6Y28
1.館長推薦者
2.田中れいな
3.高橋愛
4.矢口真里
5.柴田あゆみ
6.石黒彩
7.藤本美貴
8.吉澤ひとみ
優勝予想アンケートの下位から順にすると、こうなる。

「あっ!ののが一番だ!」
「わかったから、とっとと行け」

藤本にせっつかれて、辻はトコトコ前へ歩み出した。

「ど・れ・に・し・よ・う・か・な〜?」
「どれでも一緒だ!早くしろ!」

藤本に野次られながら、辻が引いた数字は「2」
第一試合!「1」の球を引いた選手との対決ということになった。

「アーイ!ツージーの2なのれす!」
「…1だけは引かねえようにしねえとな」

冗談交じりに藤本が呟く。最初から夏美会館の潰しあいでは格好が付かない。

99 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:41 ID:0ieD6Y28
続いて田中れいなが前に出る。
ところが彼女は抽選の箱を素通りすると、一直線に安倍なつみの前にまで進んだ。
この謎多き最年少の選手になっちは優しく微笑みかける。

「なあに?」
「もうすぐ消える人ん顔、よく見ておこう思ったばい」
「あら、どういう意味かな〜?」
「そのままたい」

会場中に戦慄が走った。
あの安倍なつみにこんな無礼な口をきいた奴がかつていただろうか!?
ふと、田中は背中に殺気を感じて振り返った。
すぐ傍に辻と、その体を抱え込む藤本の姿があったのだ。

「気ぃつけろよ。私は出さねえがこいつは手を出すからな」
「心配なかと。うちも手は出さん。今はまだ…」

間近で睨みつける辻を尻目に、田中はプイッと抽選箱の方へ戻った。
安倍なつみはいつもの微笑を崩さずに言う。

「なかなかおもしろい子じゃない。ぜひののと闘らせたいけど…」

「1」を引けば即座に辻希美との対戦が決定する。
しかし田中が引いた数字は「7」。第四試合となったのであった。
無礼を詫びることもなく最年少の娘は元の位置へ戻っていった。

100 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/07 20:41 ID:0ieD6Y28
「おっし!待ってましたぁ!」

無言で下がった田中とは好対照に、大声をあげながら高橋愛が飛び出す。
小川直伝趣味の悪いドレスを振り乱し抽選箱へと腕を差し入れる。

「二ヒヒ〜相手は誰やろ?」

「1」を引けば辻。「8」を引けば田中。それ以外なら保留となるが…。
注目の中、愛が取り出した球に描かれた数字は?

「うげ〜、なんか縁起悪ぅ」

愛の手には「4」と描かれたボール。第二試合の出番となった。
トーナメント表に名前が記される度に会場中が興奮に沸く。
だが未だ対戦が決まったカードはない。
そろそろ出てもよさそうだが…と注目が高まる中、いよいよあの娘が前に出る。
オリンピック柔道金メダリスト。国民栄誉賞にまで選ばれた国民的英雄。
矢口真里だ。
誰が一回戦でこの柔道王と試合うのか?皆が固唾を呑んで見守った。
辻か…?田中か…?高橋か…?それともまだ保留となるか?
矢口の腕がボックスの中に入る。

「そう見つめんなって。おいら照れちゃうよ。誰でもいいじゃん」

冗談交じりで矢口は箱から球を一つ取り出した。その数字は――――!!

101 :名無し募集中。。。:04/02/07 22:26 ID:dvYAZi8A
更新終わりかな?
辻豆さん乙です
矢口の相手は誰になるのか楽しみです


102 :名無し募集中。。。.:04/02/07 23:37 ID:2l4IpU1n
いったんCMでーす。って感じな終わり方ですな。続きがきになるぅぅ!!

103 :ねぇ、名乗って:04/02/07 23:51 ID:fuFa1pHR
( ^▽^)<ドキドキ

104 :名無し募集中。。。 :04/02/08 00:19 ID:K1xEu77/
辻豆さんも見てたのね
『ミニモニ。でブレーメンの音楽隊』感想などなど
http://ex2.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1075597825/150
150 名前:辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU 投稿日:04/02/07 19:57 ID:0ieD6Y28
とりあえず2月のブレーメンは永久保存決定

全シーンよかったけど一番よかったシーンは
ミカのフォーク聴いてるとこ
ののは表情だけで演技できると再確認


105 :名無し募集中。。。:04/02/09 22:55 ID:cT3uIKE/
どきどき

106 :辻豆保全隊。。。:04/02/10 23:53 ID:pZUnRo60
||゚皿゚)‖<ツジマメホゼンタイ、ハイジョ、ホゼンホゼン

107 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:42 ID:D+YnbBQB
「きたっ!」と誰かが叫んだ。
矢口が手にした数字は「8」。矢口の視線が無愛想な少女と重なり合う。

『第4試合は田中れいな対矢口真里だ!!』

続いて壇上に上がるのは柴田あゆみ。
ここでもまた対戦カードが一つ決まる。柴田の引いた数字は「1」。

『第1試合も決まった!柴田あゆみ対辻希美だ!!』

ビクンと辻の体が反応した。柴田の視線と辻の視線が一瞬交わる。
物言わず壇上を降りる柴田に続き、石黒が前に出る。
残る枠は3つ。「3」なら第2試合。「5」か「6」なら第3試合だ。
愛は緊張しながら石黒の引く数字を待った。
まだ対戦相手が決まっていない。
残るはこの石黒、そして藤本と吉澤だけ。いずれも強敵ばかりだ。
そして石黒が引いた数字は――――――!!
「3」。

『第2試合は石黒彩対高橋愛に決まったー!!』

ここで、とんでもない事実に気付き、会場は騒然となる。
残る数字は「5」と「6」のみ。いずれも第3試合。
つまり必然的に最後の組み合わせも決定してしまうということ。
しかもその残る二人というのが…。

108 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:42 ID:D+YnbBQB
藤本は微笑を浮かべたまま箱の中から残りのボールを取る。数字は「5」。
「ほらよ」と最後の一つも取り吉澤に投げた。吉澤が受け取った数字はもちろん「6」。

『これはとんでもないことになりましたっ!!第3試合は藤本美貴対吉澤ひとみ!!』

まさかこの対戦をいきなり眼にすることができようとは!?
なんと一回戦で優勝候補最有力の二人が激突することになったのだ!
藤本美貴と吉澤ひとみ、格闘技の産み落とし二人の天才がついにその拳を交えることに!

藤本の視線が吉澤を捕える。
吉澤の視線が藤本を捕える。

「いいねぇ〜うらやましいべさ」

抽選の行方を見守っていたなっちもニコニコと喜ぶ。
こうしてトーナメント全対戦カードが決定した。

第1試合 柴田あゆみ(フリー)vs 辻希美(夏美会館空手)
第2試合 石黒彩(ハロープロレス)vs 高橋愛(高橋流柔術)
第3試合 藤本美貴(夏美会館空手)vs 吉澤ひとみ(UFAボクシング)
第4試合 田中れいな(八極拳)vs 矢口真里(講道館柔道)

109 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:43 ID:D+YnbBQB
抽選会は終わった。
ヒト気のなくなった通路を、愛は石黒を探して走り回った。
亜弥の様子を聞こうと思っていたのだ。てっきりこの大会に出ると思っていたし。
しかし一向に見当たらない。どうやらもう帰ってしまった様だ。
結局、この日は一度も会話を交わすことができなかった。
(久しぶりに亜弥の様子、聞こうと思ったんだけどな…)

一方選手控え室では、帰り際の吉澤を藤本が呼び止めていた。

「最高の組み合わせだ。吉澤ひとみ」
「1回戦で負けるのにか?」
「お前ならトコトンつきあってくれるだろう?」

藤本は拳を突き上げ、吉澤の顔の前で止めてみせた。
吉澤は表情一つ変えず藤本を睨みつける。

「まあね」
「柄にも無くワクワクしてるんだよ。久しぶりに本気で闘れそうだから」
「その言葉、そのまま返してもいい」

二人の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。

「どっちでもいいけどさ〜。なるべく潰し合いはよしてよねぇ〜。
 おいらの楽しみがひとつ減っちゃうからさぁ〜」

110 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:56 ID:D+YnbBQB
矢口真里!二匹の野獣の間に小さな巨人が割り込む。
藤本と吉澤の視線が同時に動いた。

「ご心配なく。潰れる前に倒しますんで。藤本も、あんたも」
「吉澤ひとみに矢口真里。あ〜豪華な食事になりそうだ。待ちきれないよ」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜どっちでもいいって。どうせおいらが勝つんだしぃ〜」

三人の猛者がにらみ合う。そこへ場違いな声が飛んだ。

「嫌たいね〜。年増のひがみ合い…」

ギン!
三人の強烈な視線が、部屋の隅で肩肘つく少女に飛んだ。

「アララ、聞こえとー?悪か悪か」

田中れいなは少しも悪びれず、そそくさとその場を逃げ出した。
廊下を出た所で、キョロキョロしながら駆けていた愛とぶつかってしまう。

「おっと!」
「あ、ごめんなさい!私、余所見してて」
「いや平気たい。それより、あんたが闇の武術の高橋さん?」
「え、ええ?」
「ふぅ〜ん。意外と普通たい」
「??」

111 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/11 00:57 ID:D+YnbBQB
それだけ言い残し田中れいなは去っていった。
(何だろあの子?)
振り返りまた前へ進もうとしたそのときだ。
愛は今まで感じたこともない程、異質な闇の波動をその背に受ける。

「なっ…!」

愛が振り返ると、そこにはもう誰の姿もなかった。

「今の…あの娘?…まさか、ね」


対戦相手の決まった8人はそれぞれトレーニングの仕上げに入る。
全員が大会当日に最高のコンディションになる様、完璧な調整を行なっていた。
このまま何事も無くトーナメントは行なわれると思われた。
大会前日。
ところがこの日、8人の内の1人に予期せぬ事件が降りかかる。
あまりにも悲しく…残酷な…事件が。

第13話「抽選会」終わり

112 :名無し募集中。。。.:04/02/11 02:43 ID:xutUPn5o
更新乙です!!毎回毎回ひっぱりかたが上手いですね〜。

113 :名無し募集中。。。. :04/02/11 04:22 ID:w4ihcoN3
石黒・・・死んだな

114 :名無し募集中。。。:04/02/11 09:27 ID:vTclAEis
辻豆さん乙です
>>112さんも言ってますけど引っ張り方がうまいです
毎日パソコンつけたら確認しに来てます
これからも頑張ってください

115 :名無し募集中。。。:04/02/11 10:13 ID:1RlYgPRq
石黒・・・

116 :名無し募集中。。。:04/02/11 15:19 ID:KZMRDlke
クロエ・・・

117 :名無し募集中。。。:04/02/11 15:30 ID:TOf0UXRS
        ┌─ 柴田あゆみ
    ┌─┤
    |  └─ 辻希美
┌─┤
│  |  ┌─ 石黒彩
│  └─┤
│      └─ 高橋愛

│      ┌─ 藤本美貴
│  ┌─┤
│  |  └─ 吉澤ひとみ
└─┤
    │  ┌─ 田中れいな
    └─┤
        └─ 矢口真里

118 :名無し募集中。。。:04/02/11 23:03 ID:yaRD/3Za
石黒って毎回出る前にやられてきたよな

119 :名無し募集中。。。:04/02/12 00:04 ID:QTDDyCXQ
石黒だとあたりまえすぎるんで、ここは田中とかやられちゃってたら意外性あって・・・

120 :名無し募集中。。。:04/02/12 00:20 ID:wtUFY4HX
いや、ヤグに変わってあいぼんさんで

121 :名無し募集中。。。:04/02/12 00:27 ID:64lMWYpc
ネタ潰し?(w
辻豆さん乙です

122 :名無し募集中。。。:04/02/12 05:42 ID:utuRyWNv
いいところでとめると
どうしてもネタつぶしがでてくるなw

テレビドラマとかじゃないから
そんなにいいところで「続く」にしなくても
読者はちゃんとついていくけどね

123 :名無し募集中。。。:04/02/14 00:23 ID:oaD/cgzk
なぜみんな石黒だと思うのだろう


124 :名無し募集中。。。.:04/02/14 01:51 ID:H+nv2duc
一人だけ組織のナンバー2だから

125 :名無し募集中。。。:04/02/14 02:48 ID:/8I1DG5p
この大会 空手は優勝できるのか

126 :ねぇ、名乗って:04/02/14 03:39 ID:2Xzhndvl
確か最初の頃

藤本は後に
紺野&高橋&加護&松浦の内の1人と
激闘を繰り広げる
と書いてたので

このトーナメントにいる高橋で確定ランプ(しかも高橋vs藤本のファイナルのカードまでのおまけつき)がついたとおもったのだが…


悪魔に目覚めた松浦か?
それとも隻腕の加護か?
何も進展のない紺野か?

相手は
作者さんの傾向から
辻&柴田&高橋&吉澤&田中&藤本は残す
と勝手に判断

残るは矢口&石黒か?

まさかこの期に及んで新キャラ?
残るハロメンは亀井&道重…ん?アヤカが残ってる?

後藤はどこで使うのだろうかまだ見えてこないし…
ますます楽しみなお話を期待してます。



127 :名無し募集中。。。.:04/02/14 13:55 ID:H+nv2duc
かませ犬は強いほどインパクトがあるからなあ。バキのガーレンみたいに。
仮に藤本がやられたら、皆ビックリすると思うし。
まあ、俺は柴田だと思ってるんだが。

128 :名無し募集中。。。:04/02/14 15:46 ID:lcm37TnK
うーん。なんか辻と藤本早く消えそう

129 :名無し募集中。。。:04/02/14 15:59 ID:eKF4caGc
無粋な予想はよそうぜ

130 :名無し募集中。。。:04/02/14 17:34 ID:p7PRwiY7
>>129 ……

131 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:21 ID:cNTuPt+j
第14話「来ないで」

まるで寝付けない。
(あいぼんも…見てくれたかなぁ)
地上最強へのトーナメント出場が決定した晩、辻希美は言い知れぬ不安に襲われた。
消息を絶った加護の最強を証明する為に負ける訳にはいかない。
だがそれには、あの出場メンバーの顔ぶれはあまりに手強すぎた。
辻はベットを抜け出すと、夜の道を道場へと走った。

バゴォン!バゴォン!

不安をかき消す様にサンドバックを叩く。
何回も…何回も…。
パンチが当たる度にサンドバックは大きく揺れ動く。
だが不安は一向に解消されない。自分だけがひどく矮小な存在に思えてならなかった。
他の出場選手は皆、何らかの栄光や結果を残して選ばれた人ばかりだ。
自分だけが何一つもっていない。

「本当に勝てるのかなぁ…」

サンドバックに額を打ち付けてつぶやいた。そのとき背後から微かな気配を感じとる。

「ののでも悩むんだねぇ」
「なちみ!」
「館長でしょ」

132 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:22 ID:cNTuPt+j
安倍なつみだった。
突然の登場に辻は大きな口をあんぐり開けてうろたえる。

「どうして…ここに?」
「深夜の秘密特訓でもしよっかなって思ったら、先客で君がいただけ」

そうだ。普段、安倍なつみのトレーニングを目にすることは少ない。
彼女は別格で練習しなくても強いのだと誤解していた。
いつも人知れず、こんな夜中まで特訓していたとは少しも知らなかった。

「のの、うちに来て約2ヶ月…少しは空手覚えた?」
「うぅぅ…型とか技とか結構むずかしくってまだあんまり…」
「積み重ねが大事だしね。とりわけ、ののは覚えが悪そうだし」
「どうせののは頭悪いのれす…」
「そんな辻希美でもすぐできる空手を一つ、教えてあげよっか?」
「へ、へい!」

安倍は辻の右手を持つと、指一本ずつ正確に折りたたんでゆく。
そこに「正拳」がひとつ完成した。

「これを全力で相手に打ち込む。それだけでいい」
「詐欺なのれす」
「わかってないね。ののは確かにパワーはある。多分なっちより、誰よりも。
 でもそれを活かしきれてないの。ただ力まかせにブンブン振り回しているだけ。
 今まではそれで良かったかもしれないけど、さらに上を目指すならそれじゃ勝てない」

133 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:23 ID:cNTuPt+j
言い終わると安倍は、自らの正拳を目にも止まらぬ速さでサンドバックに叩き込んだ。
信じられない事が起こる。サンドバックは揺れず、中央に拳大の穴が開いたのだ。
中から零れ落ちる砂を見つめながら、辻はポカンと固まった。

「こんな風に、拡散する力を一点に集中させる訳。
ただ力任せに殴るのとは速度も威力も格段に違う」
「やっぱりなちみは凄い…」
「ちなみに、美貴もこれができる」

最後の台詞が辻の闘志に火をつけた。

「ののも練習する!なちみやミキティには負けたくない!」
「バカね。言ったでしょ積み重ねって。なっちや美貴でもこれができる様になるまで
3年はかかったんだから。ののはとりあえず形だけでも覚え…」
「大会までに!二週間でやる!」

辻の瞳が燃えていた。
正直無理だろうけど、それでも辻の不安を取り除くことにはなる。

「ま、がんばんな」
「へい!」

辻は正拳を作ると別のサンドバックに打ち込み始めた。
微笑みながら、不器用な拳の音がこだまする深夜の道場をなっちは後にした。

134 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:28 ID:cNTuPt+j
抽選会の後、高橋愛は再び紺野あさ美と共に山に籠もった。

「やっぱり強い奴との実践が一番の修行やの」
「そうね。どうだった、実際に対戦相手を目の当たりにして」
「どいつもこいつも本気で強ぇえなって思った」
「そう」
「…でも、届かないとは思わんかったわ」

愛がニィっと笑うと、紺野は自分の拳を手近な木の幹に叩き込んだ。
穴が開く…とまではいかないが、幹が拳大で凹んだ。
紺野あさ美の「正拳」は完成に近づきつつある。

「おぉ!凄っ!」
「この山篭りで私も強くなった。多分、自分が思う以上に…」
「そやの」
「そんな私と一日中闘えているんだ。愛、尊敬するよ」
「いまいち誰を褒めてるんかわからんの」

二人は、食事と睡眠以外のほとんどの時間を実践に当てた。
天才柔術家高橋愛との闘いの日々が確実に紺野あさ美を進化させていった。
その進化する空手家紺野あさ美との闘いの日々が高橋愛を進化させた!
この相乗効果が二人のレベルを限りなく押し上げていたのだ。

135 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:29 ID:cNTuPt+j
「言っておくよ。反対のブロックは間違いなく藤本さんが上がってくる」
「なんで分かるの?吉澤さんや矢口さんもいるんやよ」
「館長が選んだ人だからよ。あの人は本当に強い!」
「紺ちゃんがそこまで言うなら、よっぽどなんやの」
「ええ…」
「いいんか。倒しちゃっても?」
「え?」
「私が夏美会館を倒しちゃってもええんか?」

愛の問いかけに紺野はしばらく動きを止めた。そして言った。

「私が愛に負けた試合、何処に差があるのかって考えたんだんだ。そしてわかった。
 私は館長を目指していた。愛は館長を倒そうとしていた。その差だと思う」
「うん、よう分からん」
「だから私も変わる。館長を目指すんじゃなくて、いずれ超えるんだって」
「安倍なつみと闘うの?」
「仮に今度の大会、夏美会館以外の人が優勝したら、私は夏美会館の為にその人を倒す。
 そして館長に挑む。最強を掛けて!」
「優勝が私でもか?」
「もちろん。だから夏美会館を倒せるものなら倒してみろ!」

実に久しぶりに紺野の顔に笑みが浮かぶ。
紺野の決意を聞いた愛も、喜んで言い返したのであった。

「おーし!私が大会優勝して!もう一度紺ちゃん倒して!安倍なつみも倒してやるわ!」

136 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:30 ID:cNTuPt+j
1週間が過ぎる。
出場選手はそれぞれの方法で最後のトーレーニングに入る。
矢口真里もまた講道館をあげての最終調整段階へと入っていた。
1回戦の相手田中れいなを想定し、八極拳の名士を呼んでの模擬戦。
さらに次を見据えて、空手家やボクサーとの模擬戦。
だが誰一人として「倒れない女」矢口真里を倒すことはできない。
格闘家矢口真里のコンディションは最高潮にまで達していた。

(いける。オリンピック前より遥かに調子がいい。まるで負ける気がしねえ)
稽古後の帰り道、矢口は自分の体を確かめ、気を高ぶらせていた。
超有名人の矢口はいつもひと気のない道を選んで帰る。この夜もそうだった。
(ん?)
いつもは人っ子一人いない道に、中学生くらいの少女が立っていた。
少女は矢口を認めると小走りに近寄ってきた。
(なんだぁこんな時間に?もしかしておいらのファンの子?)

「かわいい?」
「ハァ〜?」

その見知らぬ少女は自分を指差して、いきなりこう尋ねてきたのだ。
矢口が呆れて聞き返すのも無理はない。にも関わらず、少女はまた問いかけてきた。
冗談でもふざけてる訳でもなさそうなその瞳に、矢口は不気味なものを感じる。

「ねぇ、私ってかわいい?」

137 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/14 21:30 ID:cNTuPt+j
>>118
石黒…「モームス最大トーナメント」のイメージが強いのかなぁ。
今回はまともな役なのに。高橋とも第一話以来の絡みもあるし。

>>122
こういう締め方はもう趣味みたいなもので…
今回もまたやっちゃいました。

>>126
「藤本vs4人の誰か」結構重要な伏線です。
もう誰も覚えてないだろうなと思ってました。ふってくれてありがとです。
そして、この期におよんで新キャラ出してしまいました。
(まだ名前は出してないけど…わかるだろうなー)

>>127
今まで一番インパクトを受けたかませ犬は愚地克己

>>129
・・・・・・

138 :ただすん:04/02/14 21:51 ID:4EBfC6yA
たぶん道重キタ━(゚∀゚)━!!


(゚-ン。oO(キタイノエリリンハマダカナ…)

139 :名無し募集中。。。:04/02/14 22:11 ID:IwRpk7mk
辻豆さん乙です
もしや田中と残りの6期のどっちかが
戦うことになるのかな?
マジ楽しみです

140 :名無し募集中。。。:04/02/14 23:03 ID:oaD/cgzk
私ってかわいいキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!


141 :名無し募集中。。。:04/02/15 01:43 ID:94cX2S5a
辻豆さん乙です
このままいくと矢口が・・・

142 :名無し募集中。。。:04/02/15 12:39 ID:Jia1n9uy
ヤグ・・・・

143 :名無し募集中。。。:04/02/15 22:37 ID:hiE7VJYj
悲しく、残酷な事件…

( ^▽^)<ドキドキ

144 :辻豆保全隊。。。:04/02/15 23:48 ID:7ZzLhLR0
辻豆さん更新乙です!
さゆキタ━━(゚∀゚)━━━!!
ヤグーチ!

145 :名無し募集中。。。:04/02/15 23:50 ID:MWPsm4Vd
(* ^▽^)<ワクワク♪

146 :ななしんぼ:04/02/15 23:50 ID:ImfeDRqD
今回のタイトルが気になるな

誰が誰に対して使うのか

147 :名無し募集中。。。.:04/02/16 00:33 ID:hBkJbaJG
ただ一番ひっかかるのは石川なワケで。

148 :名無し募集中。。。:04/02/16 18:12 ID:4XwhC8h1
夏美会館禿げしくイイ!!
館長サイコーっす

149 :名無し募集中。。。:04/02/16 19:31 ID:L3MI3W4x
なっち館長イイ!

150 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/17 00:27 ID:aeFTx6K7
「なんか知んないけど、ファンの子じゃないんなら、そこどいてくれる」

相手にしない方がいいと判断、矢口は手で少女を追い払った。
少女はプ〜ッとほっぺを膨らませてむくれる。

「かわいいっかって聴いてるの!」
「やれやれ、そんなに答えて欲しいんなら言ってやるよ」

ポリポリと頭を掻きながら、矢口は面倒くさそうに振り返って言った。

「おいらの方がかわいい、以上!」

ニィっと笑って、そのまま矢口はダッシュで走り去ってしまった。
完全に虚をつかれた形で、少女はその場に取り残された。
ほっぺを膨らませたまま少女は呟いた。

「ムカつく」

151 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/17 00:28 ID:aeFTx6K7
「さゆ、あんた昨日の夜どこ行ってたと!」
「れいなの対戦相手を見に」

ガツンと頭突きをくらい、少女は頭を抱えてしゃがみこんだ。

「ひどいよ〜れいな」
「まさか手ぇ出してなかとね?うちの獲物たいよ」
「出さないもん!私はれいなやえりと違って凶暴じゃないから」

ガツン!また頭突きをもらって少女はしゃがみ込んだ。
ここは人里離れた修練場。田中れいなが武術を学び育った場所である。
しゃがんで泣きまねをしている少女の名は道重さゆみ。
田中れいなと共に武術を学んできた少女である。
今は、田中に黙って矢口真里を見に行ったことで怒られている所だ。

「誰が凶暴ばい。うちから見たらあんたの方がよっぽど危なかよ」
「そんなことないもん」

ポンッと立ち上がると、道重はごく普通の表情で危ない発言を口にした。

「れいな。あの矢口って人ギタギタに潰しちゃっていいよ。私あの人嫌い」
「そげんこつ知らなか。それよりさゆ、大会のこと何処で聞いた?」
「師匠がれいなに話してるの聞こえちゃった」
「やっぱり盗み聞きか」
「テヘ」

152 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/17 00:29 ID:aeFTx6K7
「テヘじゃなか!あんたまさか、えりには言っとらんたいね?」
「ううん」
「えりに知れたらメチャクチャになるばい。言ったら殴るけん」
「言わないよ。その代わり大会の日、私も見に行っていい?」
「…師匠に聞けば?」
「そうする」

道重さゆみはトコトコと師匠のいる建物に向けて走っていった。
切れ長の目をした女―――師匠は条件付きで道重の頼みを了解した。
「何があっても決して手を出さないこと」

「大丈夫。さゆは大人しくていい子だから」

快諾すると道重はルンルンとスキップで戻っていった。
(もう少しの辛抱だよ。ククク…)
師匠と呼ばれる女は、切れ長の目をさらに細めて微笑んだ。
視線の先には一人の女性を映した写真がある。写真は幾数もの傷で切り刻まれている。

「もう少しでお前の時代が終わる」

長く尖った爪で、写真の女の首筋に新たな傷を刻み込む。
写真の女性は安倍なつみであった。

「この私が…保田圭が、終わらせる!」

153 :名無し募集中。。。.:04/02/17 01:11 ID:o/mbwH3G
更新乙です!!
六期いいですねー!そしてよーやく、よーやく彼女が登場しました!
名前だけですが・・・。



ノノ*^ー^)<んー?

154 :ただすん:04/02/17 02:45 ID:Buyo9Ftk
『ジブンのみち』をコツコツ印刷していましたが……本日、その印刷総枚数がなんと200枚突破致しました!

ちなみにモームス最大トーナメントは約190枚でした。(どちらも学校で印刷してるので私のフトコロはまったく痛みませんw)


以上、特に意味はない報告でした。よい子は真似しちゃダメだよ(・∀・)

155 :名無し募集中。。。.:04/02/17 13:00 ID:Ck0zoVQs
へえ〜!?
もう、そんなに続いてるのか。まだようやく開催したばかりだというのに。
ちなみに、モームス最大トーナメントの俺的ベストバウトは「藤本vs石川吉澤」。
藤本と吉澤は、つくづく縁があるな。

156 :ねぇ、名乗って:04/02/18 16:22 ID:leCuhAhX
“狂気の満月(フルム-ン)”
藤本美貴のファイトを早く見たいです。

まさヲロチ克己なんて…

157 :名無し募集中。。。:04/02/20 19:17 ID:1X37RJep


158 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:26 ID:vyl5ZnDp
そして大会前日。
吉澤ひとみは市井紗耶香の家を訪れていた。
待ち望んだニュースが海外から飛び込んで来たからである。

「Maki Goto won the victory in overwhelming ability」
「へぇ、結構きえいに英語しゃべれんだ」
「あの〜、私ずっとアメリカ暮らしだったこと忘れてんすか?」
「そうだった」
「ったく」
「…にしても、いよいよだな」

吉澤が頷く。
市井が手元のマウスを動かすたび、吉澤はピリピリとした感触に遭遇する。
ネットで海外のホームページを検索して手に入れた。
ブラジルで開かれた柔術のトーナメント速報。「後藤真希が圧倒的な実力で優勝した」
ピリピリした。
まるで肌が焼け付く様であった。
英語で記されたその文章を目にするだけで、たまらなく熱い。

「今や世界の格闘技の最高峰はブラジル柔術にある」

愛用のPCに目をやったまま、市井が言った。
その頂点に後藤真希が立った――と言いたいのだ。
吉澤は思わず唾を飲み込んだ。

159 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:27 ID:vyl5ZnDp
「いったい、どのくらい強ぇんだろうな」
「この日本格闘議界の、勢力構図が一変するくらいだろう」
「簡単に言いますね」
「真希は大会が終わり次第、すぐに日本に戻ると言ってた」
「…ってことは?」
「明後日か?早ければ明日の夜にも…」

明日の夜には…後藤真希がこの日本の地に降り立つ!
熱が炎になって燃え上がる様であった。

「明日の大会が…ちょうど終わる頃ですかね?」
「吉澤」
「はい?」
「最低でも…優勝だぞ。それが後藤真希へのボーダーラインだ」

誇張でも冗談でもない。市井の顔はいたって冷静である。
燃え上がる炎を内に収束しつつ、吉澤は笑みでそれに答えた。

「帰ります。家で梨華ちゃんがうまい飯作って待ってる」
「ああ。たらふく食ってよく休んどけ。明日は私も応援に行く」
「はいっ」

とびきりの笑顔で、吉澤は市井の家を後にした。

160 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:27 ID:vyl5ZnDp
窓の下には淡い街の光が広がる。
高級ホテル、その最上階にあるバー。

「美貴と二人で、こういう所来るの。初めてだっけ?」
「あんたが酒飲めねえからだろ」
「美貴が強すぎるのよ」

バーボンを氷で割ったものを藤本はグイッと飲み干した。

「同じもの」

無表情なバーテンに空のグラスを差し出す。
もう6杯目だ。安倍はまだ1杯目が半分以上残っている。

「大会は明日よ。あんまり飲みすぎちゃ…」
「明日だから飲むんだ。酔いたいんだよ」
「どうして?」
「吉澤ひとみのせいさ。楽しみで、気が狂いそうになる」
「へぇ」
「それと、安倍なつみのせいだ」
「あら、なっちも?」
「ようやく明日、あんたに辿り着くとかと思うと…」
「フフ…」

出てきたグラスを、藤本はまたグイッと喉に流し込んだ。

161 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:37 ID:vyl5ZnDp
「もう何年になるかなぁ」
「何が?」
「美貴が夏美会館に入門してさ」
「3年半だ」
「そんなになるか。いやぁ…なつかしい」
「フン」
「創設以来、何万人という入門者を迎えたけどさ。今だに美貴だけだよ」
「…」
「入門初日に、なっちに殴りかかってきた奴はね」
「…フフン」
「あの日、なっちは確信したんだ。夏美会館は地上最強になるってね」

酒が入っているせいか。安倍がいつになく饒舌だ。
新たなグラスも飲み干した藤本は、微笑を浮かべたまま窓の外に目をやった。
満月が夜空に浮かんでいた。

「美貴は満月みたいだね」
「どうして?」
「なっちが太陽だから」
「ケッ!自分で言うな」

しかし“満月”という呼称が確かに合っている気もした。
太陽に様に熱く燃え輝き続ける存在ではない。
淡い美しさの中にどこか狂気を秘めた、闇に浮かぶ満月。

162 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:38 ID:vyl5ZnDp
「じゃあ、さしずめあのガキはスッポンってとこか」

藤本がスッポンと例えたのは辻のことだ。
太陽と月とスッポン…というジョークである。

「アハハ…ひどいわよ。美貴」
「笑ってんじゃん。スッポンは今日誘わなかったのか?」
「あの子はまだ未成年でしょ」
「もう19だろ」
「どっちみち入れてもらえないわ。どう見てもお子様じゃん」
「あんたも人のこと言えねえけど」
「美貴!」
「可哀想だし、呼んでやっか」

藤本は携帯を取り出すと、ピピッと辻のアパートに電話をかけた。
『はい、こちらミニモニ留守番電話サービスセンターなのれす』と音声。

「留守だ。大会前に遊びに出てんのか?」
「まさか…まだ道場だったりして」
「そういえば、この2週間あいつずっと道場にいたらしいじゃん」

沈黙が流れる。
安倍と藤本に共通の想像が浮かぶ。二人は同時に席を立った。

「はっぱ、かけすぎたかな?」

163 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:39 ID:vyl5ZnDp
大会前日のこんな夜遅くだというのに、道場には明かりが付いていた。

「やっぱり」
「世話のかかるガキだ」
「なっちがあんなこと言ったから…」
「とにかく行こうぜ」

藤本が道場の扉を開いた。
その中の光景に藤本、そして安倍の表情も変わる。
床にうつ伏せで辻は寝息を立てていた。
注目すべきはその手前、拳大の穴が開いたサンドバックの残骸が吊るされていたのだ。
(まさか、あの子…本当に正拳を)

「こいつ、本気で2週間、サンドバック叩き続けてたのか?」

藤本がしゃがんで辻の寝顔を覗き込む。
精も根も尽き果てた…だが満足気な表情の寝顔であった。

「…美貴」
「ん?」
「なっちは今、3年半ぶりに改めて確信したよ。夏美空手は地上最強だ」
「…ああ」
「明日、スッポンが奇跡を起こすかもしれないべさ」

164 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/21 18:39 ID:vyl5ZnDp
>>153
今6期が書いていて楽しい。
実は「僕とえり」の方でもう結構書いているんだけど。

>>154
もう、そんなに書いたのか。まだトーナメントも始まってないのに。
登場人物ひとりひとりに焦点当てると、やっぱりこうなっちゃうんですかね。

>>155
「藤本vs石川吉澤」
あの闘いは作者もお気に入りです。藤本のキャラが良かった。

>>156
“狂気の満月(フルム-ン)”
かっこいいんで使わせて頂きました。

165 :名無し募集中。。。:04/02/21 22:58 ID:v1AqsH3Z
辻豆さん乙です。
すっぽんは月や太陽を超えることができるのか
すごい楽しみです

166 :名無し募集中。。。:04/02/22 12:40 ID:S4crnmsU
すっぽんすっぽん
楽しみに待ってます。

167 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:41 ID:h+te92nV
「よっしー、おそいなぁ」

何度も確かめた、時計の針は午後7時を回っている。
「勝負にカツ」と寒い願いを込めて作ったトンカツが、冷えかけている。
石川梨華は部屋に一人、ため息をおとした。
(市井さんの所、千葉だし…遅くても仕方ないよね)
自分自身に言い聞かせる。
そして、はりきって造りすぎた料理の数々を眺めまわす。
(ウフフ。このご馳走見たら、どんな顔するだろ)
幸せだった。
石川は今、幸せだった。
吉澤と共に暮らし、彼女を応援するだけの生活が。
(うん、悪くない…)

コンコン…

そのノックの音は唐突だった。
最初はよっしぃーが帰ってきたんだと思った。
立ち上がって、扉に駆け寄る。
ドアノブが静かに回る。

「よっしぃー!おかえ…」

石川の顔に張り付いていた笑みが、次の瞬間、消えた。

168 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:42 ID:h+te92nV
異質な男だった。
スーツも、ズボンも、靴も、顔つきも、金髪の髪も、その存在自体が異質であった。
この平穏でありふれた日常の中に、ひどく似つかわしくない男だった。
その男がズカズカと部屋に入り込んできた。

「あ、あ、あ、あ…」
「えろうひさしぶりやのぅ」

男の口から出た関西弁、それさえも異質であった。
石川は小刻みに震えていた。それは尋常な怯え方では無かった。

「お、上手そうなトンカツや無いか。どら、一個もろた」
「あ、あ…」

よっしーの為に作ったトンカツ…。
それさえも言葉にはならなかった。
男は、勝手に部屋に上がり込むと、テーブルのおかずを勝手に物色しだした。
トンカツを口に含むと、勝手に眉をしかめる。

「イマイチ…いやぁイマサンってとこやのぅ」
「…どうして、ここに?」

ようやく石川が吐き出した言葉が、それであった。
男は口端を持ち上げ、嫌な笑みを浮かべる。

169 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:42 ID:h+te92nV
「どうしてやあらへんがな。俺が梨華をほっとく訳ないやろ」
「寺田さん…私は…もう」
「そや、俺は寺田や。そしてお前は石川梨華や。よもや忘れたとは言わさへんで」

寺田と名乗る異質な男は、馴れ馴れしく石川の肩を抱き寄せた。
石川はどうしようもないくらい震えていた。

「今の生活、楽しいんか?」
「…はい」
「幸せですか?」

目にいっぱいの涙を溜めて、石川は大きく頷いた。
すると寺田は石川の肩に腕を掻けたまま、アハハハと笑い転げた。
大粒の涙が、石川の目から今にも溢れ出そうになる。
耳元に触れるくらいの距離で、寺田は囁き変えた。

「忘れたんか?お前は、一生、幸せになったらあかん女やろ」

涙が石川の頬を伝い落ちた。
掻き消えそうな声で、石川は言った。
「…忘れてません」と。

寺田は、憎らしい笑みを浮かべると、石川の腕をとった。

「よっしゃ!ほな、行くで」

170 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 22:43 ID:h+te92nV
玄関の向こうには黒塗りの高級車が止まっていた。
運転席に黒いスーツの男。そして助手席には世にも美しい女性が座っていた。
石川はその美女を知っている。美女は車を出ると、後部座席の扉を開けた。

「どうぞ」
「ほら梨華。乗りいや」

寺田に背中を押され、石川は思わず前につんのめる。
ズンと、重いナニカが背中に圧し掛かった。
(この重圧…私はまた…またあの生活に…)
後ろを振り返ると、吉澤と共に過ごした家が見える。想い出の数々が蘇る。
たまらなくなり石川の頬にまた、涙が落ちる。
それを見た寺田が嬉々として言う。

「なんや?吉澤ひとみが恋しいんか?」

寒気が走った。何よりもこの男の口からよっしぃーの名が出たことに。

「なんなら、吉澤も連れてきたろか」
「ダメ!それだけは…それだけはやめて!お願い!」
「おい」

寺田は美女を呼び寄せ、ナニカを耳打ちした。美女は首だけで返事する。

「ダメ!連れてきちゃダメ!よっしぃー!来ないで!」

171 :名無し募集中。。。:04/02/22 23:06 ID:S4crnmsU
うあおおおお 更新来てた!
美女?誰でしょうか?気になるう

172 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:09 ID:0g1vNJK2
(ちぃっと遅くなったかな?梨華ちゃん、怒ってるかも)
駅から続く商店街の道を、吉澤ひとみは大きな紙袋を抱えてニヤニヤと闊歩していた。
(でも、これ見たら喜んでくれるだろ?)
紙袋の中には、白いブラウスといっぱいの幸せが詰まっている。

「明日はこれ着て応援に来て、…なんてね」

髪を掻き、どうにもだらしない笑みをこぼす。
とてもボクシング世界チャンピオンには見えやしない。
商店街をこえて住宅街に入ると、もう家はすぐそこだ。
吉澤はいつもの調子で、いつもの様に、いつもの家の扉を開けた。

「たっだいまぁー!遅くなってごめん!いやー腹減っ…」

吉澤は一瞬、家を間違えたのかと思った。
見たこともない美女が居間に立っていたから。
(梨華ちゃん)(違う)(知らない人)(知らない家?)(いや…ウチだよ)
混乱する吉澤を尻目に、美女は懐からナニカを取り出してテーブルに載せた。
札束であった。

「これはマスターから。お世話になった分だそうです」
「ハァー?お世話?」
「ええ、石川梨華さんが、こちらでお世話になりましたから」

吉澤の目つきが変えるには、十分な台詞であった。

173 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:10 ID:0g1vNJK2
「梨華ちゃんは…何処だ?」
「マスターの元に帰りました。ですから、これは、そう…」
「…」
「手切れ金」

美女が妖艶な笑みを浮かべる。
手にしていた紙袋が落ちると同時に、吉澤は前に飛び出ていた。
空を裂く様なジャブが、妖艶な美女の顔面スレスレにて止まる。
美女は表情ひとつ変えることなく、言った。

「噂以上ですね。反応できませんでした」
「何者だお前。金なんかいらねえよ。とっとと梨華ちゃんを返せ」
「それは無理な相談…と言いたい所ですが」
「いいから。私が本気でブチぎれる前に、言う通りにしろ」

押し殺した声で囁く吉澤。美女の顔から笑みが消える。

「たいした殺気だ。私では、とうていあなたには太刀打ちできないでしょう」
「…早く」
「賢明な判断を。私を殴れば、永遠に石川梨華は戻らないでしょう」
「…!」
「ウフフ」

美女はツッと後ろに下がると、玄関の方へ歩き出した。
吉澤はずっと彼女を睨み続けたまま目を離さない。

174 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:11 ID:0g1vNJK2
「あなたに許された選択は二つ。
石川梨華のことは忘れ、表社会で今の輝かしい栄光と共に生きてゆくか?
石川梨華を追って、栄光も命の保証すらもない裏の世界へと飛び込むか?」

玄関を背に、美女は再び妖艶な笑みを浮かべ問うた。

「メロンを知っていますわよね。マスターに依頼されて石川さんを攫った」
「全部お前らの仕業だったのか」
「あれは裏社会のほんの表面に過ぎない存在。一緒にしてもらっては困ります」
「…」
「さぁ、どうします?吉澤ひとみさん」

吉澤は立ち尽くした。
色々なことが、頭の中を駆け巡った。
ボクシングで手に入れた栄光のこと…
日本一を掛けた明日の大会のこと…
対戦相手の藤本美貴のこと…
頂点に立つ安倍なつみのこと…
そして、帰ってくるごっちんのこと…
これまでの人生のすべてを…

(すべてを…私は…捨て…)

「そうそういい忘れてました。石川さんからあなたへの伝言」

175 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:11 ID:0g1vNJK2
妖艶な美女の言葉で、吉澤はハッと顔を上げる。
梨華ちゃんからの伝言…

「『来ないで』…だそうです」

まるで殺気の消えた、赤子のような顔で吉澤は動きを止めた。
(バカ、大バカ…私は何を迷っている)
自分の両の手を見た。
(何のために鍛えた手だ。栄光を掴む…じゃないだろう)
(梨華ちゃんはきっとたった一人で、苦しんでいる、泣いているんだ)
(誰かを守るための…手だろ)
二つの拳を強く握り締める。答えは決まっている。

「行くよ」

美女は今までで一番艶やかな笑みで、玄関の扉を開いた。
(私は戻る。梨華ちゃんと一緒に…戻ってくる)
(決着をつけてない奴はまだいっぱいいっぱい残しているんだ)
(藤本美貴!高橋愛!安倍なつみ!それと…)

「間違ってないよな。ごっちん」

静かに、吉澤ひとみはその一歩を踏み出した。
テーブルの上の冷え切ったトンカツに、気付くこともなく。

第14話「来ないで」終わり

176 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/22 23:12 ID:0g1vNJK2
次回予告

トーナメント始まる!
この日にすべてを賭けてきた出場者達が集まる。
ただ一人を除いて…。

「あいつは必ず来る!」

追う者。待つ者。闘う者。それぞれの想いを胸に…
――――熱戦の火蓋は切って落とされた!!

To be continued

177 :名無し募集中。。。.:04/02/22 23:16 ID:Gk8kbUAP
お疲れ様です。物語の幅が広がりまくりですね。

178 :名無し募集中。。。:04/02/23 20:08 ID:2k41bh45
辻豆さん乙です。
今回は更新の感覚が早いですね。
嬉しい限りです。
でも無理はせずゆっくり更新してください。

179 :名無し募集中。。。:04/02/23 21:54 ID:o5apVwjb
最近更新早くてうれしいです!
辻豆さんのペースでがんばってください!

180 :名無し募集中。。。:04/02/25 01:32 ID:Cklw4Zd9
( `_´)<誕生日に保全は恥ずかしいことではありません

181 :名無し募集中。。。.:04/02/25 15:27 ID:5os09yK1
金髪美女・・・・
女装したはたけだったりしてw

182 :名無し募集中。。。:04/02/25 20:12 ID:OG5VlUJX
今までに出ていないのって誰だ?


183 :名無し募集中。。。:04/02/26 02:45 ID:1iYMenTi
夏美会館 安倍、藤本、辻、りんね、里田、みうな、紺野
ハロープロレス 飯田、石黒、松浦、ソニン、新垣
プロレス 中澤、稲葉、小湊、信田、ルル
講道館 矢口、小川
八極拳 保田、田中、亀井、道重
ボクシング 吉澤、ミカ
日本拳法 前田
メロン 柴田、村田、大谷、斉藤
高橋流柔術 高橋
柔術 後藤
市井道場 市井
? 加護
? 石川

あと誰?


184 :名無し募集中。。。.:04/02/26 03:00 ID:4QzC/kkh
|◇´)

185 :J:04/02/26 08:59 ID:n2KMkHmX
福田とアヤカとあさみだけ?

186 :辻豆保全隊隊長。。。:04/02/26 15:05 ID:hR2Kufdz
平家姉さんキタ━━(゚∀゚)━━━!!

187 :名無し募集中。。。:04/02/27 19:17 ID:rIDzpalQ
ほしゅ

188 :名無し募集中。。。:04/02/28 01:23 ID:4jFR35KZ
石井ちゃん?


189 :名無し募集中。。。:04/02/28 22:08 ID:Cy3NF5Hw
ふぉーくふぉくふぉーくー

190 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:17 ID:k/rJ99BH
第15話「開幕」

この日、武道館は超満員に膨れ上がっていた。
最強の女を決定する、夢の異種格闘技トーナメント当日である。
格闘技ファンのみならず、一般層までが期待と波乱に胸を高鳴らせている。
ところが…波乱は思わぬ所で実現していた。

「吉澤が来ていないって!」
「押忍、家や知り合いに連絡しても繋がらないそうです」

大会の主催者でもある夏美会館長、安倍なつみが顔をしかめた。
運営を手伝う夏美会館の戸田の報告は、まさに寝耳に水だった。

「嘘でしょ、あの吉澤がぁ。一体どうしたっていうんだよぉ」
「館長、いかが致します?」

戸田が尋ねる。
時計の針はすでに開幕10分前を差している。
溜息をついて、安倍は答えた。

「…やれやれだよ」

191 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:17 ID:k/rJ99BH
『選手入場!!』の合図で、暗闇に包まれた武道館に一点の光が差す。
入場ゲートに、モデルの様にスラリと立つシルエットが写された。
待ちわびた歓声が響く。

『戦慄のハイキック再び!柴田あゆみ!!』

入場ゲートから幾筋ものスポットライトを浴び、柴田入場。
これまでの無表情に、鋭い眼光が加えられていた。
闇に生きた女の、人生を変える戦いが始まる。

『元プロレス!今は空手!!安倍なつみの切り札!辻希美!!』

小さなシルエットから元気印の娘が飛び出してきた。
観客に投げキッスを振る舞い、柴田とはまるで好対照な入場。

『打倒夏美館!ハロープロレスからの刺客はなんとあのクロエ!石黒彩!!』

風格。その佇まいにはそんな物すら感じさせる圧力が備わっていた。
派手なコスチュームを纏い、高々と拳を上げる。
早くも勝利宣言、優勝宣言である。

『実践柔術が生んだ華麗なる天才!!いざ頂点へ!!高橋愛!!』

端正なマスクを惜しげもなく崩した笑顔で、高橋入場。
まだあどけなさが残った前大会と比べ、少し大人びた印象を受ける。
それは時間のせいだけでは無い事が、この後証明される。

192 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:18 ID:k/rJ99BH
『向かう者は全員返り討ち!夏美館最強の象徴!!藤本美貴!!』

空気が変わった。
現れた藤本の表情が、今まで見たことも無い程の怒りに満ちていたからだ。
そしてその理由はすぐに明かされる。

『ダークホースとなるか!今大会最年少!若干15歳!田中れいな!!』

勘のいい観客が戸惑いの色を見せ始める。
抽選番号順でコールされていたはずが、何故か一人飛ばされたからだ。
当の田中は我関せずといった面持ちで入場ゲートをくぐる。

『あのYAGUTIがついに総合格闘技参戦!!矢口真里!!』

柔道着を着込んだ火の玉娘が飛び出す。
最年少の田中よりさらに一回りは小さく見えた。しかし声と態度は一番大きい。

こうして中央のリングにズラッと7人が並び立つ。
だが会場はまだ騒然としていた。
――――吉澤ひとみがいない!!
誰もがそのことに気付いていたのだ。

「――皆さんに、残念なお知らせがあります」

そのときであった。入場ゲートから安倍なつみの声が聞こえたのは。

193 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:19 ID:k/rJ99BH
「どうやら吉澤ひとみは…夏美会館に負けるのを恐れて逃げ出したみたいです」

一斉に不満の声があがる。当然だ。
藤本vs吉澤は1回戦最注目、事実上の決勝と語る専門家すらいる夢のカードだ。
選手たちの中にも動揺を浮かべる者がいる。

「嘘やろ、あの吉澤さんが…」

高橋愛が呟く。
直接拳を交えた公園で、そして摩天楼で、吉澤の勇敢さを見た。
(あの人が、逃げ出す訳ない!)
しかしなっちは残酷にも続ける。

「本当に残念だけど、リザーバーを使うことに決め…」
「待て!!」

突然、なっちのマイク音を掻き消す程の大声があがった。
その主が観客席から入場ゲートへ強引に上る。
警備の男たちがただちに取り押さえにはいるが、声の主はそれを軽くいなす。片腕で。

「あれって、市井」「柔術の市井だ」

観客がざわめく。
かつてその類まれなる柔術の技で格闘技界を席巻した女、市井紗耶香であった。
その市井が安倍なつみの前に立ちはだかったのだ。

194 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:19 ID:k/rJ99BH
「あら、懐かしい顔」
「安倍…」

この二人、因縁があった。
市井が全盛期で勝利を収め続けていた頃。
安倍が夏美館を設立し名をあげていた頃。
激突したのである。
柔術vs空手。壮絶な戦いであった。
敗者は名声を失い、日本を去った。
勝者は自分とその組織を一気にメジャーへと押し上げたのだ。
敗者が市井紗耶香。勝者が安倍なつみであった。
その二人が、実に数年ぶりに顔を合わせたのである。

「ウフフ。もしかして、リザーバーでも申し込みに来た訳?」
「そんなもんいらん。戦うのは吉澤だ」
「でも、いないんじゃ無理よね」
「あいつは必ず来る!」

市井が吼えた。

「そいつの言う通りだ!アニキは逃げたりしねえよ!!」

すると、別の所からも声があがった。
講道館の小川麻琴だ。彼女もゲートに登ってきた。
吉澤の後輩である彼女も、吉澤という人物をよく知っている。

195 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:26 ID:k/rJ99BH
「私からもお願いします!!もう少し待ってあげて下さい!」

今度はリングの上から声。
高橋愛だ。我慢できずに前へ進み出ていた。

「やれやれ、ずいぶん人望があるのね」

なっちは困った笑みを見せる。
市井、小川、高橋の真剣な眼差し。そこへまた新たな声があがった。

「第三試合が始まるギリギリまで、猶予をくれ。館長」

藤本美貴!彼女の口から出たトンデモナイ台詞に皆が驚く。
対戦相手が直々に願い出たのだ。
なっちまでもが目を丸くして驚いた。そしてその驚きを笑みへと変える。

「しょうがないわね。ギリギリまで待つことを許可します」

喜びの声は会場全体で聞こえた。皆、吉澤ひとみの闘いを見たいのだ。
市井はなっちに軽く礼をすると、すぐに会場を飛び出していった。小川も続く。

(ミキティが「館長」って言った)
辻だけひとり違う所に感想を浮かべた。藤本が真剣な所、初めて見たからだ。
(吉澤って人、来てほしいな。ミキティの本気の試合、見てみたい…)

196 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:27 ID:k/rJ99BH
開会式が終わり、愛はすぐに会場を飛び出した。
関係者出入口付近で小川は携帯電話をいじりまわしていた。

「どう?」
「ダメだ、くっそ!アニキの携帯ずっと圏外だ。何処行ったんだぁ?」
「何かあったんじゃ…」

そのとき、青いスポーツカーが物凄い勢いで前に止まった。
片腕で器用に運転する市井が、窓から顔を出す。

「お前も乗るか!?吉澤の家に行く!」
「は、はい!」
「私も…」
「馬鹿!愛は選手だろ!!任せとけ!!」

麻琴が愛の胸をドンと叩き、青いスポーツカーに乗り込んだ。

「愛!負けんなよ」

そう言い残し、二人を乗せた青いスポーツカーは物凄い速さで走っていった。
残された愛は、空にまだ決着を付けていないライバルの顔を浮かべた。
(吉澤さん、何してるんやって!)

――――――――ここで時間は昨夜に遡る。

197 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/02/29 01:27 ID:k/rJ99BH
>>177
ありがとうございます。
拡げた風呂敷はいかにまとめるか…これからが勝負です。

>>178>>179
更新はできるだけ早くしたいんですけど。仕事が…
あー作家になりたい!

>>181
金髪は美女じゃなくて、寺田さんの方です。

>>185
あれ、あさみ未登場だっけ?
と思って読み直したら、序盤に登場してはいるが名前を書いてなかった…。
何処に属しているかは大体予想つくとは思うけど。

>>189
やっと見つけたジブンの道ぃ〜♪

198 :名無し募集中。。。:04/02/29 04:18 ID:UQ0j+pNM
>>197
序盤に登場してはいるが名前を書いてなかった…。
前スレ54の
>「紺野ちゃーん。本部からお客さんだよー」
>先輩の呼ぶ声にようやく少女は足を止めた。
この先輩があさみ?


199 :名無し募集中。。。:04/02/29 10:03 ID:GzrrXZym
辻豆さん乙です
あの藤本が本気になったんですね
吉澤は果たして試合に出れるのか
楽しみにしています

200 :名無し募集中。。。:04/02/29 12:46 ID:UQ0j+pNM
>>176
>To be continued
これってやっぱりブレーメンから?


201 :名無し募集中。。。:04/02/29 16:59 ID:wX4FMbCU
娘。トーナメントか何かでも使っていた様な気がしないでもないみたいな

202 :名無し募集中。。。:04/02/29 18:07 ID:kZKHmIEO
元ネタを探すとかそういう次元なのかい?

203 :名無し募集中。。。:04/02/29 19:18 ID:R4RCDI+u
この展開じゃ藤本が負けちゃいそう・・・

204 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:20 ID:LM6ClB34
美しい満月の夜、国道を黒塗りの高級車が走る。
車内には三人の男女が乗っていた。
運転席に座る男は寡黙で、一言も声を漏らさない。
後部座席に二人の女性、妖艶な美女と、中性的美しさを持つ娘が座っていた。
中性的美しさを持つ娘――吉澤ひとみの目元にはアイマスク付けられていた。

「到着まで一時間くらいです。申し訳ないですが、我慢してくださいね」
「構わねえよ。お前らは信用しねえけど、あんたを信用する」
「それはありがとう」

この妖艶な美女に誘われ家を出ると、この高級車が止まっていたのだ。
「行く」と決めたのだから、迷う必要も無い。吉澤は車に乗り込んだ。
行く先も、そこで何が待つのかもわからない。
ただ…梨華ちゃんが待っている。
その想いがどんな不安も凌駕する。

「開会式が13:00。そっから試合が始まって、私は第3試合だから…
 どんなに遅くてもリミットは15:00ってところか」
「なんです?」
「明日の大会だよ。何時なら間に合うかなって」
「まだその様なことを言っているのですか?」
「当たり前だ。梨華ちゃんを取り戻して、明日の昼までには戻るから」
「怖いもの知らずも、あなたくらいになると気持ちがいい」

やがて車はカーブし、坂を下る感覚を吉澤は感じた。
(…地下か?)

205 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:20 ID:LM6ClB34
「アイマスクを外していいですよ」

妖艶な美女の言葉を受け、吉澤はただちにマスクを外す。
ただっ広い地下駐車場の一角に車は止まっていた。
(何処だここ?)

「降りて下さい。こちらです」

妖艶な美女が車のドアを開け、呼ぶ。
運転席の男は結局一言も声を漏らさず、じっと座っていた。
おそらくここまで載せることだけが彼の仕事なのだ。余計な事は一切しない。
吉澤は車を降りて美女の後に続く。
(まるで人の気配がしねえ。不気味な場所だ…)
駐車場の片隅にエレベーターがあった。それに乗る。
エレベーターのボタンは上行きしかない。ここが最下層なのだ。
すると、妖艶な美女はおもむろに緊急と書かれたボタンを押す。
カチッとマイクが繋がる音、そこへ美女が美しく告げる。

「アヤカです」

マイク音が切れると、ガクンとエレベーターが揺れ、下降を始めた。
(最下層…より下があるってこと)
二人を乗せたエレベーターは下降を続ける。

206 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:21 ID:LM6ClB34
「怖くなってきました?」
「少しね」
「ウフフ…」
「それより、あんたさ。アヤカって名前なんだ。可愛いじゃん」
「おだてても何も出ませんわよ」
「チェ」

エレベーターが止まった。
短い通路、その先に鉄の扉と数字の並んだボタン。
アヤカがピピッと数字を推してゆく。10桁は操作していた。
とても覚え切れそうにない。

「たいしたセキュリティだ」
「さぁ、どうぞ。マスターがお待ちです」

マスター。梨華ちゃんを攫った張本人。一体どんな人物か?
吉澤は大きく唾を飲み込んだ。
そして扉の先に待ち受ける光景に、吉澤は思わず目を疑った。
豪華な装飾の数々が、磨かれた柱や壁を包む。
床の赤い絨毯にはチリ一つ落ちてやしない。
まるで…中世ヨーロッパの王宮にでもタイムスリップした感覚。

「…マジかよ」

207 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:22 ID:LM6ClB34
「マジやで」

吉澤は再び目を見張る。
王様みたいな衣装の金髪男が奥から姿を現したのだ。
アヤカが深々と頭を下げる。

「吉澤ひとみを連れて参りました。マスター」
「ごくろうやったな。ようこそ吉澤君。会いたかったで」
「あんたが…マスター?」
「せや」
「あんたが梨華ちゃんを…」
「アレは元々わいのもんやで」

アレ。まるで人とも思っていない口ぶりに、吉澤は奥歯を噛み締めた。
だがここでキレル訳にはいかない。
確実に、梨華ちゃんと二人、戻る方法がわかるまでは。

「石川梨華を取り戻す方法を知りたいんやろ」

まるで心を読んだかの如く、マスターはそう言い切った。
吉澤は素直に頷いた。マスターはニヤリと笑う。

「わいがこの財をどうやって築き上げた思う?」
「さぁ」
「コロシアムや」

208 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:30 ID:LM6ClB34
コロシアム。
古代ローマ帝国において、剣闘士たちが命を掛けて闘った競技場の名前。

「現代に蘇らせたんや。お前らの大好きな格闘技ちゃうで。殺し合いや。
 これが馬鹿な金持ちどもに受けとんのよ」

悪。その一言を見事に体現した笑みを浮かべる。
そして彼が何が言いたいのか、何となくわかってきた。

「私に、そのコロシアムに出ろってこと」
「話が早いのぅ」
「誰を倒せば、梨華ちゃんを返してくれる?」
「決まっとるやろ。チャンピオンや」
「マスター!それは…」

アヤカが突然叫んだ。ここまでずっと冷静だったあのアヤカがだ。
(チャンピオンってのはそれほどの者なのか)

「どや、やるか?」
「約束は守るんだろうな」
「守らなコロシアムは成り立たへんやろ。ここでは勝者が絶対や」
「私が勝ったら、梨華ちゃんを返してもらうぞ。そして二度と近づくな!」
「命の保障はないで」
「上等」

209 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:31 ID:LM6ClB34
マスターは誓約書を取り出す。
彼の各印はすでに押されてある。
吉澤はアヤカが用意した朱肉に親指を押し付けると、そのまま誓約書に押し付けた。
こんな裏社会では公的に意味のない代物だが、気持ちの問題だ。

「よっしゃ、交渉成立やな」
「で、試合は何時からだ?私は今すぐでもいいぜ」
「そう焦らんでええがな。こっちも準備がある」
「急ぐんだよ」
「しゃーないな。明日の昼12時ジャスト試合開始でどうや。それ以上は無理やで」

吉澤は脳内で計算を始めた。
(12:00か。秒殺して、速攻戻れば、ギリギリ大会に間に合うか…?)

「勝ったらすぐに帰ってもいいんだよな?」
「言ったやろ。勝者は絶対やて。好きにすればええで」
「OK!12時だな」
「よかったで。吉澤ひとみが意外と話の分かる奴で」
「こちらこそ」

マスター寺田と吉澤ひとみは互いに笑みを浮かべる。
アヤカだけが複雑な表情のまま、その場に取り残されていた。

210 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:32 ID:LM6ClB34
「おーフカフカ。気持ちいい〜」

用意された部屋のベットにゴロンと倒れ込む。

「大物なのか…鈍感なのか…。あなた、ご自分の状況がわかってないみたいね」

ベットで横になったまま、吉澤は入り口に立つアヤカを見上げる。

「わかってるさ。勝てばいいんだろ」
「ルールもあって審判がいる格闘技とは違いますのよ」
「それでも、こいつに変わりはない」

吉澤はグッと拳を自らの顔に近づけた。

「どつき合いなら、世界中の誰にだって負けねえ自身があるからよ」
「…チャンピオンを知らないから」
「なんだって?」
「いえ、何でも。最後の夜をせいぜい楽しむことね」
「何だよ行っちゃうの?話し相手いなきゃ、楽しめねえだろ」

アヤカはその美貌をわずかに崩す。
この吉澤を相手にしているとどうも調子が狂う。

「話すことなどありません」
「あるよ。アヤカのことが知りたい」

211 :名無し募集中。。。:04/03/01 18:34 ID:lNXOK1qk
まだ、更新途中だといいんだけど・・・・ネタバレしそうで・・・石川・・・わかんないけど・・・

212 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:47 ID:LM6ClB34
変な奴だ…とアヤカは思った。
明日死ぬかもしれないのに、こんな屈託ない顔で話しかけてくる。
自分はこちら側の人間なのにだ。

「まぁいいでしょう。冥土の土産に」
「だから私は死なねえし、負けねえっての」
「それで、どんな話をするのです?」
「チェ。クールな奴。そうだなぁ…アヤカの昔話が聴きたい」
「そんなものありません。私は物心ついた時からここにいましたから」
「えっ?」
「あっ!…今のは忘れてください」
「ずっとこんな所に?友達とかいなかったの?」
「…いるにはいましたが、負けて動けなくなった子や去った子ばかりです」
「それって…」
「その内の一人に、あなたも知っている子がいます」
「誰?」
「柴田あゆみ…聞いたことがあるでしょう」
「嘘!メロンの?」
「ええ、メロンになる前、彼女はここで共に育った」
「そうなんだぁ。確かにあいつだけ…何か違ったもんなぁ」
「あなた達との戦いのときは、まだ殻を被っていた」
「え?」
「殻を破った柴田あゆみは…強いですよ」

アヤカは妖艶な笑みを浮かべ、言った。

213 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:47 ID:LM6ClB34
時間は再び大会当日に戻る。

「今まで、ありがとうございました」

控え室のひとつ、柴田あゆみが頭を下げていた。
下げられた三人は思わぬことに、苦笑を浮かべあう。

「顔、上げろよ」
「こっちが照れるじゃねえか、なぁ」

斉藤と大谷の言葉を受け、柴田は静かに頭を上げる。
村田もメガネをつまみながら語る。

「私たちも嬉しいのです。あなたの晴れ姿が見れることがね」
「はい」

吉澤達に敗れた後、格闘技に挑戦したいと言う柴田に反対する者はいなかった。
むしろ3人は積極的に協力したものだ。
斉藤の関節技、大谷の打撃、村田のトリッキーな技術、全てを柴田に注ぎ込んだ。
だが、柴田が感謝しているのはそれだけではない。
(アソコを逃げ出した私を…ここまで育ててくれたのがあなた達です)

「いってきます!」

地の底から光輝く場所へと辿り着きし娘、柴田あゆみ出陣!
相手は夏美会館の辻希美である。

214 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/01 18:48 ID:LM6ClB34
>>198
はい。その夏美館北海道支部の先輩が「あさみ」です。
いろいろ活躍の予定あったのに、作者の都合で全部お蔵入りに。

>>200
ブレーメンの影響です。
ラッキーチャチャチャでTo be continuedの流れが気に入ってしまって。

215 :名無し募集中。。。.:04/03/01 21:29 ID:WkJek5HT
更新お疲れです。
今回の感想は、「そーいう方向か!!」
って感じです。

216 :名無し募集中。。。:04/03/01 23:18 ID:noDZuMZZ
辻豆さん乙です
ここからどういう風に展開していくのか
楽しみで堪りません
頑張ってください

217 :名無し募集中。。。.:04/03/03 00:58 ID:P+FnSBmy
>>211
俺もそう思う

218 :ただすん:04/03/03 22:08 ID:UsVBACk7
寺田ってつんく♂の本名だったんですか…はじめて知りましたyo!

219 :ねぇ、名乗って:04/03/03 23:30 ID:dsEvVQQ4
辻豆さん乙です。
今後の展開がむっちゃ楽しみです。

>>211
チャンピオン候補は4人思い付いたけど、
Aはいまいちキャラが合わなそう。(世俗を離れて独り山奥で修行していそう)
Bはありそう。ただ、自分はこの人のことあまり知らないので実はキャラが合ってないのかも。
Cは最初、この人しか無いと思ったけど矛盾が生じる(何か設定があるのかもしれないけど)
Dはこの人であって欲しいけど無理があるかなぁ?
てな感じ。
チャンピオンが明らかになったらA〜Dが誰なのか書きます。

220 :名無し募集中。。。:04/03/05 01:42 ID:+9mJ7buC
>>218
知らない人多いみたいだな。


221 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:09 ID:yemCz5A/
>>215
はい、こういう方向です。
結構前から色々張り続けてきた伏線がようやく回収できそうです。

>>216
ありがとう、頑張ります。
この先どうなってしまうのか作者自身もワクワクしていますので。

>>218
つんくファンの方、ごめんなさい。今回は悪役にしてしまいました。

>>219
まさか、こっちが推理させられることになるとは…。
推理させるのも好きだけど、推理するのも好きなんで考えました。
メール欄にA〜Dの予想を載せておきます。

222 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:10 ID:yemCz5A/
入場口に辻希美は立っている。
周りには誰もいない。安倍なつみは主催者で、藤本美貴は選手だ。
思えば、夏美会館に入ってからこの二人以外との交流はほとんどなかった。
自分が夏美会館代表として選ばれたことに不満を持つ者も、少なからずいるであろう。
もうすぐ名前が呼ばれる。
足が震えていた。
さっきからずっとだ。
試合というならばハロープロレス在籍時に幾度かの経験がある。
だが、今日のそれは今までのどれとも違った。
負けたら終わり。
やり直しはきかない。その人間に敗北の烙印が下されるのだ。
地上最強…その道が閉ざされるのだ。

「くふぅ」

息を吐いた。同時に声が漏れた。
柄にもなく緊張している。こんなにも怖いものだとは思わなかった。
そう、敗北の洗礼を受けるのは自分だけではない。
自分が所属する夏美会館の敗北、自分を選んだ安倍なつみの敗北に繋がる。
それが怖い。
館長推薦者がみっともない負け方をする。安倍なつみは見る目が無いと人々に罵られる。
それが怖かった。
足の震えが、どうしても止まらなかった。逃げ出したくなった。
(そうだよね。ミキティがいるんだし…ののなんかいなくても…)
辻希美は回れ右をしかけた。その振り向いた先に、空手着の女性が数人立っていた。

223 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:10 ID:yemCz5A/
「なんて声を出している」

先頭の女が言った。辻は振り向きかけたまま固まった。
里田。一昨年の夏美会館全国王者である。
その横にも知っている顔が二つ。本部の戸田と北海道支部の木村。
いずれも全国大会では毎年ベスト4かベスト8には食い込む強豪である。
さらにその後方には若い顔が見える。
この所メキメキ腕をあげていると評判高い静岡支部の斉藤だ。

「み、皆さん。どうしたんれすか…?」
「お前に言いたいことがあってな」

木村が言った。続いて戸田が口を開く。

「お前の出場は館長が決めたこと、我々が口を挟むことではない」
「だがな、私達は認めないぞ」
「…里田さん」
「もしここで負けたら、私達はお前を絶対に認めない」

…認めない。里田の言葉が辻の胸を強烈にえぐった。
そして、里田の拳がきつく握り締められていることに、辻は気付く。
(あぁそっか。出場したかったのは自分だけじゃない。みんな、みんな…
最強を目指して夏美館にいるのれす。なのに…ののは…選ばれたくせに…逃げようと…)
唇を噛んだ。
みんなの気持ちに応える為できることはひとつ…勝つことだけ。

224 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:11 ID:yemCz5A/
「ののを殴ってくらはい!」

目にいっぱいの涙を溜めて、辻は叫んだ。その勢いに戸田や木村は思わずたじろぐ。
すると後ろから、まだ一言も発していなかった若き空手家が身を乗り出してきた。

「そういうことでしたら、わたくしにお任せあれ」
「おい、みうな」

止める木村の声にまるで耳を貸さず、右から左へ流れる様な正拳突きを放つ。
遠慮のない一撃であった。辻の頬が赤く膨らむ。
右を向いた辻が正面に顔を戻し、また吼える。

「まだまだぁ!」

ブゥンと、今度は左から右で裏拳を当てる。みうなの拳には少しの容赦もない。

「入りましたか?」

コクンと頷く。正面を向いた辻の頬は両側とも赤く腫れあがっていた。
気合が…入った。

「行きましょうか。私がセコンドをしてさしあげますわ」

戸田と木村と里田はホウと思った。決して他人に媚を売らぬあの斉藤が自分から。
辻希美はニコッと笑んだ。そして歩き出した、前へ。

225 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:11 ID:yemCz5A/

一回戦第一試合

柴田あゆみ(フリー)21歳



辻希美(夏美会館空手)18歳

226 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:11 ID:yemCz5A/
怒号の様な大歓声。その中を、二人の娘が向かい合い立っていた。
柴田あゆみと辻希美だ。
身長差は約5cm。柴田が高い。だが間近で並ぶと数字以上の開きを感じる。
柴田は無地の胴着を。辻は夏美会館と記された空手着を着用していた。
互いに言葉を交わすことはない。

試合場は、プロレスのリングとは違いコーナーもロープも無い。
ルールはバーリ・トゥード。ポルトガル語で「何でもあり」を意味する。
禁止されているのは「目突き」と「噛み付き」だけ。
敗北条件はダウンしての10カウント、ギブアップ表示、ドクターストップ、
セコンドからのタオル投入、以上の4つである。
試合時間は無制限。引き分けや判定は無い。
そういうトーナメントである。

柴田あゆみのセコンドがメロンのボス斉藤瞳。
辻希美のセコンドが夏美会館の斉藤みうな。
奇しくも同じ姓を持つ者同士となった。
二人とも余計な口出しは無用と感じていた。試合場に立つ選手を信じるのみである。

主催者特別席で、安倍なつみが見ていた。
その隣で、藤本美貴が見ていた。
観客席最上段で、田中れいなと道重さゆみが見ていた。
選手控え室のモニターで、高橋愛と石黒彩と矢口真里が見ていた。

ゴングが鳴った。

227 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:22 ID:yemCz5A/
まず柴田が動いた。
辻を中心に円を描くよう、ゆっくりとゆっくりと動き始めた。
それに合わせて辻が体を動かす。常に正面を向くように。
――ッ!
突如、柴田の右足が消えた。同時に辻の小さな体が後方にぶれた。
蹴りだ。消えたと錯覚する程の速度。柴田の右足が辻の脇腹を狙ったもの。
腕でガードしていなければ倒れていたであろう、物凄い威力であった。
続けざまに柴田は左足で蹴りを狙う。
それを悟った辻はすぐにガードを固める。
これが罠であった。
蹴りの振りをした左足をすぐに戻すと、柴田は低空姿勢で前に出た。
タックル!
気付いた辻が、すぐに拳を横になぎ払う。
が、それよりもさらに低く、柴田は辻の左足を抱え込んだ。
辻が倒される。
柴田が左足を抱えたまま、辻の左手首を掴み取った。
開始早々、寝技の攻防。柴田の作戦通りに進んでいた。
辻のグラウンド技術はハロープロレス在籍時に学んだものが全てだ。
それも短期間であった為、万全であるとは言いがたい。
逆に柴田は上手かった。身近に関節技のスペシャリスト斉藤瞳がいたのが大きい。
十秒、二十秒、リング上で二人はもがき合った。
完全に左腕を取ろうとする柴田、取られまいとする辻。
腕を取られればその時点で試合終了である。ギブアップするか、折られるかだ。
腕が折られたら…もう試合にはならない。
――――――――――その腕を、柴田がついに捕えた。

228 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:23 ID:yemCz5A/
腕ひしぎ十字固め。
完全に決まった。どんなにもがこうともう外せない。
ミリィという音がした。骨が軋む音だ。辻の顔が激痛に歪む。

「あっけない幕切れだったな」
「やっぱり柴田か」

客席からの声。開始からまだ1分も経ってない。
これほどまで実力に差があるとは誰も予想していなかった。
いや、ここは柴田を褒めるべきだろう。
打撃から、フェイント、タックル、寝技、決め、全てにおいてムダが無い。
辻が何もさせてもらえなかったのだ。

柴田のセコンド、斉藤瞳は勝利の笑みを浮かべる。
辻のセコンド、みうなは対照的に顔をしかめた。タオルを握る手に汗がこびり付く。
まだ辻はギブアップをしない。
辻を攻めることはできない。柴田が強すぎた。想像以上に強すぎたのだ。
もう選択肢は残っていない。ギブアップするか、ギブアップをせず腕を折られるかだ。

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃ…」

苦悶の声。歯をむき出しに辻の苦悶の声が響く。
ミリミリィミリィという音。骨と骨が軋みズレル音。想像を絶する激痛。
それでもまだ辻はギブアップをしない。
「もう勝負はあったのに何故?」と、会場中の観客が疑問を浮かべた。

229 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:23 ID:yemCz5A/
ここから数十秒の間に起きた出来事を、のちに人々はこう呼ぶ。
奇跡、と。

体が浮いていた。柴田あゆみの体がだ。
何事か?と柴田は思った。
間接技を掛けられている左腕だった。辻希美の左腕だ。
その左腕が柴田あゆみの体を持ち上げようとしているのだ。
理屈では分かる。無理だ。
しかし現実、柴田は確かに左腕一本の力で持ち上がっているのである。
腕力が強い、というレベルの話ではない。
そんなことがあってはいけないのだ。
少なくとも自分が教わってきたグラウンドの技術には、存在していない。
関節技を完璧に決める――――そこが終着駅なのである。
(こんなことがあって…)

「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

不可能が現実になる。左腕がその腕力のみで、自分より大きい人間を持ち上げた。
そのまま辻は左腕を柴田あゆみごと、反対側の床に叩き付けた。
そして右の拳を握り締め、振り下ろした。
柴田は慌てて腕を放し、間一髪で辻の突きをかわした。
同時に立ち上がった二人は、再び向かい合う。
辻は左腕をブランと垂らし右腕のみ構えをとっている。
柴田は叩き付けられたダメージがまだ残っており、全身が重く感じた。
いやそれはダメージのせいだけではない。そう、恐怖だ。

230 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:23 ID:yemCz5A/
(馬鹿な…私が…恐怖を感じている…)
(そんなはずはない。そんな感情はあそこで、あの場所で捨ててきた!)
柴田あゆみの表情が変わった。気の質も変わる。
それは「試合に勝つ」というより「相手を叩き伏せる」という感情に近い。

『殻を破った柴田あゆみは…強いですよ』

アヤカが吉澤に言った。その殻を…今、破った。
あの無表情な柴田あゆみが、牙を剥き出しにして辻希美に迫る。
来る!誰もが悟った。柴田あゆみ最高最強の必殺技!
フリージア!
回避不能。一撃必殺。試合序盤の蹴りとは速さも、破壊力も、歴然に違う。
そのフリージアに一筋の閃光が立ち向かう。
(拡散する力を一点に集中…)
あの夜、安倍なつみに一本一本指折り、教わったもの。
辻希美の正拳!
そいつが柴田あゆみのフリージアに真っ向から挑みかかった!

「ああああっ!!」

赤き純潔と一筋の閃光の激突。
もの凄い強度の物体が砕ける音。その音が会場に響き渡った。
正拳を突き出したままの姿で固まる辻。
ハイキックの体勢で固まる柴田。
場内に静けさが満ちる。

231 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:24 ID:yemCz5A/
ガクン。
膝から崩れ落ちたのは―――柴田あゆみであった。
さっきの音。あれは柴田の脛が破壊された音だったのだ。
倒れた柴田に向かって、さらに辻は拳を振り上げる。
まだ向ってくる!辻の闘争本能がそう反応させたのだ。

「そこまでーーーーーーーー!!!!」

レフリィーが間に入って、辻を止める。
見ると、柴田側のセコンドからタオルが投入されていたのだ。
もう闘えない。斉藤瞳の判断であった。そしてその判断は正しかった。

「勝者!!辻希美ぃぃぃぃ!!!!!」

高らかにコールされる自分の名前を聞いて、ようやく辻は我に返った。
強く握り締められた自らの拳を見つめると、今度はそれを高々と振り上げる。
それに呼応する様に、会場全体から辻希美の名が何千何万となって叫ばれた。
人々の興奮は早くも最高潮に達していた。
そう、彼らはその目でまのあたりにしたのだから。
辻希美という名の「奇跡」を。

一回戦第一試合 勝者 辻希美 1分27秒 TKO

第15話「開幕」終わり

232 :辻っ子のお豆さん ◆Y4nonoCBLU :04/03/05 03:24 ID:yemCz5A/
次回予告

一回戦第二試合、始まる
高橋愛の前に立ちはだかるのは、かつて高橋流の門を叩いたプロレスラー石黒彩。

「お前では、私には勝てない」

一方、石川梨華を救うため吉澤ひとみはコロシアムに入る。
対峙するは裏世界最強のチャンピオン。
果たして、吉澤はトーナメントに間に合うのか!?

To be continued

233 :名無し募集中。。。:04/03/05 04:16 ID:5gEQpEL3
辻豆さん夜遅くまで乙です

234 :ねぇ、名乗って:04/03/05 05:30 ID:7EuDkoPz
いや〜
手に汗握る激闘でした。
辻ゆえに柴田のフリージアを素手で掴んでその化け物的な握力で握り潰すなんて結末だったらどうしようかとw

で、闇のチャンプはGかKかFかIの4人しか思いつかないのですが
まさかキッズの誰かなんてヲチは…

これからも期待してます。

235 :名無し募集中。。。:04/03/05 13:35 ID:3XlmEbus
辻豆さん乙です
辻が勝ちましたね高橋もてこずった
柴田のフリージアを破った正拳すごいですね
すっぽんがこれからも奇跡を起こしていく
と思うとすごい楽しみです

236 :ねえ、名乗って。:04/03/05 19:46 ID:PfFvedv9
四月から海外出張で(´・ω・`)ショボーン ジブンのみちが見れなくなっちゃいます。
このペースですと…準決勝がはじまるオイシイときに丁度離国かな・゚・(つ∀`)・゚・

237 :名無し募集中。。。:04/03/06 01:21 ID:boB4kYGw
>>234
死亡説の流れてるあの人が闇のチャンプだったらいいな〜って思ってる・・・。
一応、裏主人公だし・・・BBみたいにならないかな〜って。

238 :名無し募集中。。。:04/03/06 01:25 ID:cGjyL8A+
>>237
きまりでしょ。それしか思い浮かばないもん。悪い意味じゃなくてね

239 :名無し募集中。。。:04/03/06 05:56 ID:2j5nNKIz
では、なぜアヤカは止めようとしたのか…

240 :名無し募集中。。。:04/03/06 07:38 ID:cGjyL8A+
では石・・・・

241 :名無し募集中。。。:04/03/06 14:30 ID:4M1m+6EN
そこでmisonoの登場ですよ。

242 :名無し募集中。。。:04/03/06 17:24 ID:2j5nNKIz
それとも、メカあいぼnゲホゴホ

243 :名無し募集中。。。:04/03/06 18:44 ID:4ZxLWGWb
尾見谷・・・


244 :名無し募集中。。。:04/03/06 23:50 ID:xWXr0zqM
(  `◇´)

245 :名無し募集中。。。:04/03/07 11:08 ID:19wKqiCD
梨華さんは二重人格。とか…
戦闘モードに入ると、指で何かするメチャ強キャラに豹変!だったり

246 :ねぇ、名乗って:04/03/07 12:05 ID:PqQesFKW
そう言えば石川って
間接技の達人(これも驚きw)斉藤の首を貫く指の持ち主だったな…
男塾で言う羅刹みたいなものかな?



247 :名無し募集中。。。:04/03/07 13:37 ID:jWjTsEfv
オレも(  `◇´)が見たいな

248 :名無し募集中。。。:04/03/07 14:27 ID:oXD/UtOK
ガキサンをうまくつかってほしかった・・・

249 :名無し募集中。。。:04/03/07 17:19 ID:3PLrR2AM
(  `◇´)<アルバム発売記念にうちを活躍させたってな〜

250 :ねぇ、名乗って:04/03/07 21:03 ID:oX9v9i5O
>>248
眉毛ビーム最高だったじゃないか
なつみ会館でなくハロープロレス所属なのが不憫でたまらなかったけど

251 :名無し募集中。。。:04/03/09 05:56 ID:uX/Zz1hk
>>246
あれって貫いてたの?
俺はてっきり、デコピンか何かかとw

252 :名無し募集中。。。:04/03/10 00:05 ID:l0N/doAt


253 :名無し募集中。。。:04/03/10 05:10 ID:YwJs220/
>>251
>このとき石川梨華の中指に血が滲んでいたということ。
としか書いてないな
石川って二重人格?


254 :名無し募集中。。。:04/03/10 07:50 ID:tGURlZHk
チャンピオンより先に
あややの行方が明かされるヨカーン

255 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:50 ID:mUC1t4V1
諸事情によりトリップ変えました。
それでは、更新いきます。

256 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:51 ID:mUC1t4V1
第16話「もっとも恐れる者」

今大会は危険なルールである為に、怪我人も必須と予想される。
それ故になかなか立派な医務室と医師達が準備されていた。
敗者の柴田はもちろんのこと、勝者である辻も治療を受ける。
その様子を安倍なつみが見に来た。
(なにが…奇跡だ)

「右手にヒビが入っています。左腕の損傷も激しいですね」

医師による辻希美の診断結果であった。
あのフリージアとまともに撃ち合ったのだ、右拳がただで済むはずが無い。
同様に間接を決められたまま強引に持ち上げた左腕、これも正常なはずがない。
(奇跡なんかじゃない。自分の体を限界まで酷使して、ようやく掴めた勝利だ)
(そうしなければ…とても勝てなかった)
安倍が心配そうに見ていると、辻が弱々しく微笑んだ。

「医師の立場としては、これ以上の試合はお勧めできない」
「だってさ。のの」

辻はブルンブルンと首を大きく横に振る。彼女は止めても出るだろう。
自分の立場として、どうするべきだろうか?なっちは考えた。
(ののの気持ちを酌むべきか…今後の選手生命を考えて、止めるべきか)

257 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:51 ID:mUC1t4V1
10分足らずの休憩時間を挟み、一回戦第二試合が始まる。
ハロープロレスの石黒彩と高橋流柔術の高橋愛の試合である。
今大会は選手一人一人に専用の控え室が準備されている。
愛は自分の控え室で、ソワソワと動き回っていた。

「少し落ち着いたら」

紺野あさ美が言う。
彼女は夏美会館の門下であるにも関わらず、今回愛のセコンドを引き受けてくれた。
打倒安倍なつみ、という彼女なりの意思表示なのかもしれない。

「だってだって、吉澤さん来てえんのやよ。心配でしょ」
「人の心配をしている場合じゃ無いよ」

オーバーアクションで愛が訴えるも、紺野の方が正論である。

「他の事に気を取られながら勝てる相手ではないよ。ハロプロの石黒さんは」
「そんなの…よく知ってる」

石黒彩は、愛がまだ高校生の頃、よく道場へ柔術を学びに来ていた。
何度か組手もしたが、まったく歯が立たなかった。道場生の中でも一番であった。
あれから数年の月日が流れている。

「集中しなきゃ…勝てないよね。うん、わかった」
「うん。吉澤さんのことなら、小川さん達がきっと何とかしてくれるよ」

258 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:52 ID:mUC1t4V1
青いスポーツカーが車道を飛ばす。
運転席に市井紗耶香、助手席に小川麻琴が乗っていた。
二人とも吉澤ひとみに関係を持つ娘である。
開会式に吉澤が来ていないことを知り、安倍なつみに第三試合まで待つという条件を付け、
吉澤ひとみを探すため、こうして飛び出してきたという訳だ。
スポーツカーが急ブレーキして停車する。目的の場所、吉澤の家に到着したのだ。
飛び出して玄関に駆け寄った小川がまず異変に気付く。

「あれ、玄関の鍵かかってないっすよ」
「開けろ」

家の中に入ると、異変はさらに拡大していった。
無造作に落ちてある買い物袋、その中から白いブラウスが顔を出している。
テーブルには作ったままのトンカツが、手付かずのまま置かれてある。

「何だ何だ何だぁ〜?メシも食わねえでどっか行ったんすかね?」
「そんな単純じゃなさそうだ。見ろ」

市井が床を指す。カーペットに靴の後が残っていた。男物と女物だ。
吉澤以外の誰かが土足で上がり込んだと思われる。

「もしかして、誘拐事件っすか?」
「あいつがその辺のコソドロにやられるとは思えない。もっと嫌な予感がする」
「石川さんもいないっすね」
「ん、ああ、そういえば」

259 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:53 ID:mUC1t4V1
自分で口に出して小川は思い出した。

「あっ!石川さん!前に変な奴らにさらわれたことあったなぁ」
「誰に?」
「あのメロンって奴等。ほら、大会に出てる柴田あゆみとその仲間達っスよ」
「そんな大事なこと、今頃言うなよ!」
「だってメロンの奴等、全員会場にいたし…あれ、じゃあ違うのか?え〜?」
「ちょっと落ち着け」
「落ち着けねえよ!アニキが心配じゃないんスか!?」

市井が苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。ここで口論したところで何も始まらない。
だが、吉澤達の身に何かが起きているのは間違いないようであった。

「…あいつを信じよう」
「信じるって、アテはあるんスか!」
「アテか…」

市井の脳裏に一人の娘が浮かぶ。限りなく儚いアテではあるが…。
(吉澤があいつとの約束を破る…はずがない)

「大会間に合わなかったらどうするんすか?アニキはこの日の為に…」
「そのときは…吉澤ひとみはそこまでの女だったということだ」

市井の言葉はきつく、しかし信頼に満ちた言葉であった。
時計の針は午後2時を回っている。

260 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 22:59 ID:XVy7uQ9m
約2時間前。
時計の針が12を指そうとしている頃。
地上の武道館では、まさに最強を掛けたトーナメントの幕が上がろうとする頃だ。
地下深く、コロシアムの前に彼女はいた。
動き易いシャツとボクシングパンツに身を包んでいる。
吉澤ひとみである。
両の手はグローブに包まれてはいない。完全な素手だ。
ヘビー級ボクサーの素手の拳は、それだけで人を破壊しうる凶器となる。

「準備はいいですか」

隣に立つ、世にも美しい女性が言った。
吉澤をここに案内したアヤカという女性だ。
吉澤は軽く頷いて応える。
するとアヤカは頭部全体を覆う黒いマスクを取り出した。

「コロシアムの決まり。全てのファイターがこれの着用を義務付けられています」
「ふぅん、変な決まりがあるんだね」

文句を言いながらも吉澤はそれに従う。
目と鼻と口と耳の箇所に通気の穴が開いていた。
思った程、被り心地は悪くない。
これなら戦闘にはほとんど影響は無さそうだ。

261 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:00 ID:XVy7uQ9m
「どうぞ」

アヤカが鏡を用意していた。
そこに映る自分を見て、このマスクの意味が何となく理解できた。
通常の試合の場合、相手の顔や経歴はたいてい事前に知ることができる。
対戦相手を心から憎むというケースは少ない。
むしろ、同じ道を志す同士として共感や尊敬を抱くことの方が多い。
さんざん殴りあった選手同士が試合後、互いを賞賛し抱き合うシーンはよく見られる。
だが、ここは違った。
マスクで顔を隠した自分が、まるで人では無い様に映った。
相手の素性も知らない。
互いにマスクを被ることによって、顔すら知ることはできないのだ。
対戦相手に、情も尊敬の念も持つことは無い。
ただ倒すだけの、ただ破壊するだけの、ただ息の根を止めるだけの、敵でしかないのだ。

「怖いな」
「向こうもあなたのことを知りません。条件は同じですよ」
「そんな素性も知らぬ相手を倒し続けた、チャンピオンなんだろ」
「…ええ」
「やっぱり怖い…が、やり甲斐はある」
「やり甲斐?」
「一番嫌いなタイプなんだよ、そういうこと平気で出来る奴」

そう言って、吉澤は足を踏み出した。
闇の最も深遠たる血塗られた死闘場(コロシアム)へと。

262 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:01 ID:XVy7uQ9m
「レディースアンドジェントルマン、ようこそおいで下さいました。皆様」

コロシアムのマスター寺田の挨拶。
そこに集まった人々は尋常な者たちではなかった。
身に着けている物がすべて億の価値ではないかという風貌であった。

「驚いたぞ。昨夜、急に開催の連絡が入ったときは」
「しかも挑戦者が世界チャンプのヨシザワだというではないか」
「私は、ありとあらゆる予定を全てキャンセルしてきましたよ」
「ハハハ、俺もだ。決まっとる」
「見逃せる訳がなかろう。こんな贅沢なイベントを、のぅ」

彼らは口々に好き勝手言っていた。いずれもが裏社会に名を轟かす名士達である。
寺田は、この様な者達を相手にのしあがってきたのだ。

「ご承知のとおり、本日の対戦はコロシアム創立以来、最高のカードです。
我等が誇る無敗のチャンピオンに、挑むはご存知、表社会のチャンピオン!
 UFAボクシング世界ヘビー級王者、吉澤ひとみ!」

舞台調に寺田が名士達の気持ちを高ぶらせる。
この一戦で何十億、ヘタすれば何百億という金が動くのだ。
声のトーンを落とし、寺田は続けて囁く。この上なく闇に満ちた表情で…。

「さらに、本日は、特別な趣向もご用意しております…」

263 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:02 ID:XVy7uQ9m
「レディースアンドジェントルマン、ようこそおいで下さいました。皆様」

コロシアムのマスター寺田の挨拶。
そこに集まった人々は尋常な者たちではなかった。
身に着けている物がすべて億の価値ではないかという風貌であった。

「驚いたぞ。昨夜、急に開催の連絡が入ったときは」
「しかも挑戦者が世界チャンプのヨシザワだというではないか」
「私は、ありとあらゆる予定を全てキャンセルしてきましたよ」
「ハハハ、俺もだ。決まっとる」
「見逃せる訳がなかろう。こんな贅沢なイベントを、のぅ」

彼らは口々に好き勝手言っていた。いずれもが裏社会に名を轟かす名士達である。
寺田は、この様な者達を相手にのしあがってきたのだ。

「ご承知のとおり、本日の対戦はコロシアム創立以来、最高のカードです。
我等が誇る無敗のチャンピオンに、挑むはご存知、表社会のチャンピオン!
 UFAボクシング世界ヘビー級王者、吉澤ひとみ!」

舞台調に寺田が名士達の気持ちを高ぶらせる。
この一戦で何十億、ヘタすれば何百億という金が動くのだ。
声のトーンを落とし、寺田は続けて囁く。この上なく闇に満ちた表情で…。

「さらに、本日は、特別な趣向もご用意しております…」

264 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:05 ID:XVy7uQ9m
床は固い土で覆われている円形の闘技場であった。
壁はすべて灰色のコンクリート、天井はかなり高い。
2階部にガラス張りの窓がある。こちら側からは向こうが見えない。
向こうからはこちらが見えていて、悪質な金持ちどもが笑っているのかもしれなかった。
だが吉澤にとってそれはたいした問題ではなかった。
問題は「対戦相手を倒して石川梨華を救う」の一点のみ。
(どんな化け物か知らねぇけど。かかってこいよチャンピオン)

反対側の扉が開いた。
静かに、そいつはやってきた。
頭部は白いマスクで覆われ、体全体は白いタイツの様なものに包まれていた。
体のラインがありありと見て取れる。
胸の部分が僅かに膨らんでいた。
(こいつがチャンピオン!…女か)
細い。腕も、足も、腰も、首も、あらゆる部分が細かった。
だがそれは弱々しい細さではない。
硬い針金を幾重にも絡めた上に完成する様な、絞りぬかれた細さであった。
白いマスクが、じっとこちらを見ていた。
吉澤も黒いマスクの中で、白いマスクを睨んだ。
二人とも言葉を一切発さない。
(なるほど…人間を相手にしてる様な気にならねえ)

二つの扉が同時に閉まる。
もう逃げ場はない。この狭い空間にただ、二人きり。
そしてこれがコロシアム、始まりの合図でもあった。

265 :辻っ子のお豆さん ◆nono/jetwo :04/03/10 23:06 ID:XVy7uQ9m
>>234
応援ありがとうございます。キッズは今のところ登場の予定ないです。

>>235
辻は準決勝がかなり熱いことになると思います。
その相手はかつての上司石黒か?それともあの娘か?

>>236
海外出張ですか。大変ですね。体に気をつけて頑張って下さい。
帰国して、まだこの小説を覚えていて続き読んでもらえたら幸いです。

>>242
メカあいぼん。はるか昔のボツキャラをよくも引っ張り出してくれおったわ、小童。
加護といえばブレーメン(・∀・)イイ!やわらかい関西弁がかわいい。

>>244
どういう役で登場させるか熟考してる内に機会を失くしてしまって。
イイコナノニネ(  `◇´)

>>246
男塾、好きでよく読んでました。羅刹といえば腕一本無くなっても「かすり傷」

>>248
確かに今の所、設定を活かしきれてないですね。反省。
でもガキさんはまだ出番あります。あの人がらみで。

266 :名無し募集中。。。:04/03/10 23:28 ID:oqWNiSre
あーあ・・・ののたん・・・

267 :名無し募集中。。。:04/03/11 00:28 ID:lifFfwyV
とうとう石川VS.吉澤か…

268 :名無し募集中。。。:04/03/11 11:02 ID:0hqtKpMz
辻豆さん乙です
やっぱりこの感じだと石川VS.吉澤になりそうですね
吉澤がこれから何を思いどう動くのか楽しみです

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